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あの時のことを思い返すと、正直なところ少しばかり怖い。目の前で血が飛び散るのを見るのは初めての経験だった。
あんな形で、命が失われるのを見るのも。
「――見せるつもりはなかったんだけどな」
皇帝の訪れに、部屋の主と向かい合わせで茶を飲んでいた春永はあわあわとしてしまっていた。自分の使っていた茶道具をぱっと見えないところに隠したかと思ったら、ばたばたと部屋から出て行こうとする。
「春永。君もここにいてくれ。薔薇宮の警護を増やしたから――」
「あ、はい。厨房に行った時に聞きました!」
見ているこちらが気の毒になってしまうほどに春永は緊張していた。
「あいつら、俺が皇帝だと知っていた。知っていて、襲いかかってきた――武官相手にかかってくるからには、単なる盗賊ではないだろうと思っていたが。生き残ったやつを尋問したら、そう吐いた。首謀者の名までは明かさなかったが」
文浩の言葉に、ぴしりと部屋の空気が凍り付く。
(……だって、今日の外出は急に決まったものなのに)
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