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隣の寝台を使っている呂永春が、そっと声をかけてくる。
「……そうする。起こしてごめんね」
寝台にもう一度潜り込み、頭まで上掛け布団を引き上げた。
誰にも邪魔されないよう、上掛け布団の中で丸まりながら考える。
(……まだ、妃になったわけじゃない。ということは、逃げ出す機会はある)
商家の娘である翠珠が、後宮に妃候補のうちの一人として入ることができたのは、ひとえに父のごり押しのおかげだ。
だが、早く記憶を取り戻していれば、後宮入りなんて断固として拒否していた。
(……そう遠くない未来、この国は亡びる。そして、そのタイミングで私は死ぬんだ)
ゲームの中で、滅びた国の皇帝が言っていた。
妃達は全員、国が滅びた時に死んでしまったと。
妃として迎えたはいいけれど、誰とも一度も契りをかわしていない――だから、愛したのは”ヒロインだけ”だと。
(……妃として迎えておいて、一度も通わないとはどういうわけ? っていうか、愛したのはヒロインだけって妃達のこと馬鹿にしてるよね?)
プレイヤーとして、ヒロインの立場から見れば、「なんてロマンティック!」となるんだろう。プレイヤーとしての翠珠もそんなことを思った記憶がある。
けれど、妃の方からすれば、なんて馬鹿馬鹿しいんだろう。
後宮に入って妃としての地位を賜っての、皇帝のお渡りが一度もないまま死亡するなんて。
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