1717人が本棚に入れています
本棚に追加
当時の翠珠は、妃というものがどんな立場なのか理解していなかった。
『妃になれば、美しい衣を着て、座って微笑んでいればいいんだよ。お菓子も食べ放題だ』
という父の甘い言葉にまんまと乗せられたのが後宮入りを決めた理由だ。
そんな理由でほいほい乗ってしまった翠珠も翠珠だ。もう少し早く記憶が戻っていたら、父の言葉になんて乗せられなかったのに。
(ここがゲームの世界だって話したところで、そもそも「ゲームって何」って話になってしまうもんね……)
どうやってここから逃げ出そうか、頭が痛い。
膝の上に置いた絹地は、皇太后が皇帝と面会する時の衣だ。
数年前の流行り病により、皇宮で暮らす人の数はずいぶん減ってしまった。
前皇帝も流行り病で亡くなった一人だ。現在の皇帝文浩の弟達は、後宮を出て自分の賜った領地で「王」として暮らしている。
今のところ、ここで暮らしているのは、皇帝、皇太后、妃候補の娘達に、使用人達。およそ三千人ほどが働いていると聞いているが、翠珠にとっては主とその祖母以外存在しない世界だ。
今はすべての王は自分の領地にいるし、皇帝の恋人というか愛人というかそういった類の女性もいない。
最初のコメントを投稿しよう!