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日本人としての記憶を取り戻した今、翠珠はしみじみと心の中でつぶやいた。
美の基準としてもっとも大事な艶やかな黒髪。大きくくてくっきりとした瞳にすっと通った鼻筋。口は小さく、黙っていれば人形にも見えるだろう。
今朝、鏡を見つめてしみじみと自分の顔を観察してしまった。白く滑らかな頬、細く長い首。どちらかと言えば、華奢なタイプでもある。
前世と違うのは、翠珠は完全な健康体というところか。
今、翠珠は襦裙と言われる衣を身に着けている。肘にかけるひらひらとした布は、裁縫の邪魔なので、外して後ろに放り出していた。
皇太后の身に着けるどっしりとしたえんじ色の衣に、金糸と銀糸をふんだんに使って刺繍を施していくのだが、模様が細かいので気を遣う。
(どうして、陛下はこんなに美人ばかりなのに誰にも手を出していないんだろう)
なんて、ちょっと下世話な想像もしてしまう。
彼の即位の折に、翠珠のように後宮に送り込まれた娘はたくさんいるけれど、誰にも手を出さないまま三年だ。
(……いつ、私は妃になるんだろう。国の滅亡までそんなに時間ないよね……?)
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