第三章――転機と暗躍

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 「楓さんまで何言ってるんですか~やめてくださいよ」  両手をぶんぶんと振って否定する真樹をけらけら笑い、楓はエンジンを入れる。つかの間の安息に、隆幸たちはついつい盛り上がってしまった。 走行しているうちに、みなシートベルトを装着し終え、ブルルとエンジンの荒い駆動音が響く。  「さて、みんな出発の準備はいい? 出るわよ」  ハンドルを軽く握り、アクセルに体重を乗せていく楓。  「いいっすよ~どうぞどうぞ~」  アイマスクを付け、そのまま思い切り椅子を倒してくる晴人。狭いんだけど。  「さぁ、岩見さんの家に向かって、しゅっぱ~つ!」  「おーああいてぇ!」  ブゥン!  突然の猛スピードに隆幸らは真正面から重力を強く受ける形になり、楓を除いた全員が椅子に後頭部をめり込ませた。思わず舌を噛んでしまい、血の味が口の中で広がる。  「わぅ!」  初めて楓の運転する車に乗った真樹は物の数秒で目を回し始める。それはそうだろう。楓の車に乗った人は全員酔うのだ、大人でもやばいのに高校生が耐えられるはずもない。  「ちょ、おい、死ぬこれ死ぬ! もう少しゆっくり!」  高速道路並みに飛ばす楓の眼は、先ほどの穏やかな印象とは相反した、スピード狂の鋭い眼差し。隆幸を黙殺し、スピードメーターは住宅街なのに七十キロを超えた。水を流すがごとく飛ぶ景色。  「御堂君、しゃべりすぎると舌をかむよ?」  「ならスピードもう少し落とせよ!」  呪いを解く前に事故死するかもしれないと本気で思った昼過ぎだった。
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