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第一章――忍び寄る影
「じゃーね、一真!」
一真と別れてから、真樹は一人、体育館から校舎内に忍び込んだ。
目的は言うまでもないだろう。
「噂が本当かどうか、確かめてやらないと」
ただの好奇心だ。別に深い意味はない。一真も連れていきたかったのだが、きっと真面目だから絶対に断る。だから真樹は一人、その検証をしようとしていた。恐怖感はあるものの、やはり大きな好奇心のほうが上回っていた。むしろ、程よいスリルとゾクゾクする背徳感を、真樹は楽しんでいた。
一階の資料室を過ぎ、電気が消えた校舎を懐中電灯だけを頼りに徘徊する。一年の教室がある四階まで、先生に出くわさないように細心の注意を払いながら登る。この時間帯まで残っている教師はほぼゼロなため、拍子抜けするほど簡単だった。
当然ながら、生徒の姿はない。窓の外にはポツポツと家の光がともっている。
「予想はしてたけど、やっぱり気味が悪いな~」
独り言を呟きながら、真樹は自分の教室――一年四組の教室の扉を開けた。ガラガラと場違いな騒音が響き渡り、予想よりも大きな音につい体が緊張した。
教室の中は、放課後の状態のままだった。片づけは明日に回されているため、機材が散らかってる。そのうち数時間前のざわめきが残っている気がした。
明るい教室を見慣れているせいか、夜のとばりに包まれた教室は新鮮味がある。
教室を一瞥しながら、真樹は黒板の上に張り付けられたアナログ時計に目を通す。……十二時まであと五分。いつもは気にならない、秒針を刻む音が不気味に鳴った。
見渡すと、クラスメイトの一真の席があった。彼らしく机は整頓されている。相反して真樹の机はプリントでぐちゃぐちゃだ。近いうちに整理しないと、とばつが悪くなる。
「ん?」
思案して時間を潰している最中、真樹の耳がかすかな異音を聞き取った。このような静かな場所でなければ、まず間違いなくかき消されていていたであろう音。
「何、この音……?」
重い物を結びつけた紐が軋む、鈍い音だった。規則的に、ゆっくりと、何かが揺れている。
キィ……キィ……キィ……。
不安感を誘う甲高い音が、教室中にゆったりと鳴り響く。
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