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ここにきて、真樹の心に影が差した。天井に懐中電灯を向ける。もちろん、何もぶら下がっていない。……気のせいかしら、と真樹は首をひねる。
フワリ。
突如、カーテンが風もないのに大きく揺れた。
「え!」
突然のことに硬直しながら、揺れているカーテンを見やる。カーテンは前後に振り子の如く振れている。ドックン。ドックン。世話しなく血液が排出されていく。
……なんで勝手にカーテンが揺れてるの?
動けなくなる真樹をあざ笑うように、シャーという擦れる音を出しつつ、勢いよくカーテンが左右に押しやられた。誰かが引っ張ったような、スムーズな動き。窓は、閉まっている。
「……誰か、いるの?」
窓ガラスに映し出される、真樹の黒いシルエット。懐中電灯の光が、閑散とした教室を反射した。
足がすくんで動けない真樹と。
両足が地面から離れ、宙づりになっている女性の姿を。
嫌な汗が額から垂れる。静寂がキーンという耳鳴りが、とても煩い。
感じたのは禍々しいほどの邪悪な気配。音もいつの間にか大きくなっている。両手両足が冷たくなっていく。過呼吸寸前になりながら、真樹はゆっくりと視線を後ろへやる。
黒い影が見えた。
振り返ってはいけない、と本能が囁いていた。振り返ったら絶対に後悔する、と。しかし、出来の悪いマリオネットのように、真樹の体は勝手に振り向いてしまった。背後にいる『ソレ』を直視してしまう。
思考が、止まった。
首を吊り、極限まで見開かれた目をした女性と、目が合った。
反射的に叫ぼうにも、ゼェゼェという枯れた声しか出なかった。地面に垂れた女性の排泄物の臭いが鼻をつく。背中まで伸びたばさばさの髪。ぼろぼろの制服。痙攣し、爪がはがれた両手をゆっくりと真樹に差し出す。
『ヨコセ……』
老婆に似た嗄れた声とともに、真樹の記憶が途切れた。
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