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アパートの一室。目を開け、御堂隆幸はベッドから身を起こした。記憶にはないが、ひどい夢を見ていた。たぶん、『あの時』の夢だろう。朝から最悪な気分だ。汗で濡れた服を脱ぎ、ハンガーに掛けたワイシャツを羽織り、重い身体を引きづり、キッチンに向かう。
「休んじまおうかな」
無論小市民である自分がそんな体逸れたことなどできるはずもない。水道をひねり、がぶがぶと水を飲む。胃の中に落ちる冷たい感触が心地よい。
ブー……ブー……ブー……!
心臓がきゅっと掴まれる、不快な感覚。ポケットからの振動。取り出してみると、昨日充電をし損ねたスマホが入っていた。
「なんだよ……平野か?」
スマホに表示されたものを見――危うくスマホを地面に落としかけた。
『冷泉』
そう表示されていた。暖かい部屋なのに、ブルッと背筋が震える。スマホはなお急かすように振動している。
「どういうことだ? なんで……」
悪戯? いや、あの事を知っているのは晴人と楓だけだ。ただでさえ元のクラスメイト達にとって冷泉の名は禁句なのだ。
……誰も行方不明になった冷泉真樹の名を騙るはずがない。
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