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電話は未だに鳴っている。電源を切ってしまおうかと考えてしまう。しかし、むかつく胸の痛みは払しょくできない。
「……たかが電話だ、最悪ぶっちぎればいいよな」
通話ボタンを押し、恐る恐る耳に当てる。途端にアナログテレビのような砂嵐が耳を貫く。大音量で流れる砂嵐。たまらず窓のカーテンを開け、部屋を明るくした。
「どなた様ですか?」
ザザザザ!
返答は、ない。気味が悪いと思いながら、我慢強く耳にスマホを当てていると。
「……あ……に……る」
蚊が鳴くような小さな声。だけど、幼っぽいたどたどしい声色は、まさに冷泉のそれだ。彼女の言葉を聞き取った途端、タイミングよく電源が落ちた。真っ黒になる液晶に、引きつった自分の顔が映っていた。
「……嘘、だろ」
赤門高校にいる。聞こえたのは、まさにそれだった。
昼休み、隆幸は平野晴人を誘い、レストランで食事をとっていた。ぺったりとしなだれた隆幸の黒髪とは違い、晴人は茶髪のオールバック。遊び人の風貌とは裏腹に、晴人は神妙な表情をしていた。周囲で同僚や先輩たちが騒いでいるのに相反し、隆幸らは極めて異質だっただろう。
「赤門高校って、それ、マジなのかよ!」
「ああ。電話がかかったんだ。……悪戯じゃないと俺は思ってる」
「ほんとに冷泉だったんだな? まあお前がそんな嘘つくはずねーもんな」
客でごった返している店を選んで正解だった。こういう話は静かな場ですると重苦しくて仕方ない。食べている物の味が分からなくなるほど、隆幸の思考回路は混沌としていた。
「だけど、今になってそんな連絡が来たのかが疑問だ。そもそもあいつは行方不明のはずだ、なんで電話できる?」
「あんなことがあったんだ。どんな奇想天外なことだって起こり兼ねねー」
確かに。あれを超える異変なんて発生しないだろう。
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