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僕はホタルだ。仲間からはショウと呼ばれている。春に仲間と草むらで、遊んでいた。
背中から、大きな生物、人間の気配を感じた。
「みんな逃げろ!」
僕は叫んだ。仲間は羽を激しく振動させながら、逃げ切ったようだ。
僕だけが人間に捕まった。
怯える僕を、人間の顔が二つ近寄る。羽を全力で動かそうとするが、掴まれ、動きを封じられた。
〈パパ、指でホタル捕まえたよ〉
声の主は笑顔の人間だ。あんぐり口を開いている。生温かい息が全身にかかる。食べられるんだ。僕は覚悟を決めて、ぎゅっと目閉じた。
〈パパがビンに入れて上げよう〉
ビンなるモノに放り込まれた。床に倒れこみながら、羽を震わせていた。顔を上げたれば、人間の顔が歪んで見える。腰が抜けて、床にへたばる。
先にビンに居た仲間達がいた。代わる代わる、僕を励ましてくれた。一番ビンでの生活が長い先輩は、皆から“長老”と呼ばれていた。
「ショウ。わしは捕まって、もう一週間は経っているが、人間から充分なおいしいエサと、きれいな水を与えられている、そう心配するな」
「でも、いつ殺されるか、考えただけで、怖くて怖くて」
「心配ない。わしたちは、無事解放される」
「長老、どうして言い切れるのですか?」
「わしは過去にもな、人間に捕まったのじゃが、解放された。ははは」
長老、二度目かよ! 僕を元気付けようと、長老の体が明るくなっていた。ビンの中では、誰もが顔色は良く、ノンビリ寝そべったり、暇つぶしで軽く飛んだりしている。
ビンが揺られ続けていた。不意に、眩しい光がビンの周囲を覆う。どうやら人間の住処らしい。ゴトン、と大音響がし、ビン全体が震える。
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