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【1:クラス委員長選挙】
4月、一学期の初日。ここ『私立 世界高校』では、始業式の後、クラスごとのホームルームが行なわれている。
世界高校というのは単なるネーミングで、世界中にあるわけじゃなく、日本国内に一ヶ所あるだけなんだけど。
その世界高校三年A組の教室で、ひと通りの連絡事項が終わったあと、担任教師の菅原 美知先生が生徒に向けて言った。
「じゃあ今からクラス委員長を決めるぞー」
空野 広志はみんなと同じように、菅原先生の声を黙って聞いていた。
広志は自分は何の特徴もない平凡なタイプだし、個性的な生徒が多いこの高校では、自分なんぞは目立たずにいた方がいいんだと思っている。
菅原先生は24歳独身で、学校一番の美人教師でスタイルも良し。なのだけれども、割とスパルタなのでみんなには恐れられている先生だ。
広志は菅原先生を特に怖いとは思わないけど、管理主義の先生だし、皆が恐れるのはちょっとわかる気がする。
「誰か立候補する者はいるかー? いないな。ハイ、じゃあ投票にする」
いるかー? の後、1秒しか待たずに投票を宣言するなんて、自分勝手な性格が現われてる。でも先生が怖いから、誰も文句を言わない。
そして投票なんて言っても、今日がこのクラスの初日でお互いに知らない者も多いから、誰に投票したらいいのかもよくわからない。なんてったって、この高校はマンモス校で、一学年に10ものクラスがあるのだ。
だから三年生といえども、お互いにあまり知らない生徒も多い。だけど先生が怖いから誰も文句を言わない。
菅原先生は生徒の学業成績を上げさせることには熱心だけど、それに関係ないことは結構テキトーにするらしいという評判だ。
学業成績を上げさせることが自分の存在意義なんだと生徒の前でも公言してるから、ほぼ間違いあるまい。
テキトーなのはあまり感じ良くはないけど、だけど先生が怖いから誰も文句を言わない。
その時ガラッと教室の扉が開いて、毛の薄いおじさん……もとい、教頭先生が頭を……じゃなくて顔を覗かせた。
「菅原先生、ちょっと急きょ打ち合わせたいことができまして。もうホームルームは終わりますか?」
「あ、はい。大丈夫ですー。すぐ行きます」
これからクラス委員長の選挙をするのに、大丈夫なはずがない。いかにテキトーに考えてるかがよくわかる。
それよりも教頭に媚び媚びの笑顔を振りまいて、評価を上げることにご熱心な様子だ。だけど先生が怖いから誰も……もういいか。
「えっと……そうだ。主意 兼継。君が司会をして、男女委員長を決めてくれ。やり方は君に一任する。終わったら全員、帰って良し。以上!」
そう言い残して、菅原先生はそそくさと教室から出て行った。代わりに教壇に主意が立つ。
彼は既に東大合格間違いなしと言われてる超秀才で、教師連中の信任が厚い。
そして、しかも、なおかつ、アゴがシュッとした知的な超イケメンで、特にメガネ男子好きの女子達から絶大な人気を誇っている。メガネの奥で、まつげが長くて爽やかな目がきらーんと光ってるのだ。
「なあみんな。単にクラス委員長の選挙をするなんて面白くないから、ここは『世界高校人気総選挙』の前哨戦として、クラス内での人気投票をしないか? そして男女それぞれ一位の者がクラス委員長をやるんだ」
その言葉を聞いて、教室が大きくどよめいた。
そう。この『私立 世界高等学校』には、毎年12月24日に全校規模で行なわれる『人気総選挙』というものがある。
各学年ごとに同じ学年の異性の生徒に投票するのだ。『人気』の基準は、彼氏にしたい・彼女にしたいというもの。
芸能界でもよくある『彼・彼女にしたい芸能人ランキング』と同じだと思えばいい。
もちろん学校の公式行事ではなくて、何十年も前に先輩の誰かが始めて、それが様々なルールが整えられてきて、生徒の間で毎年の恒例行事として引き継がれている。
しかし実は人気総選挙には予備選挙があって、総選挙の一ヶ月前、つまり11月下旬にクラスごとに代表者男女一名ずつを決めることになってる。
総選挙は、その各クラスの代表者のみがエントリーされ、その中から順位が決まるのだ。
世界高校は各学年10クラスだから、学年ごとに男女それぞれ10人ずつで総選挙を争うことになる。
だから主意の提案は、11月に行なわれるクラスごとの予備選挙を占う、前哨戦になるというわけだ。
そしてクラスが大きくどよめいた理由──それは。
「あ、皆さん、気づいていると思いますが、このクラスには去年の総選挙の人気ベスト3が、男女ともいます」
そう。そういうことなのだ。
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