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自宅から数メートル手前にある角を曲がった所で、葵は足を止めた。
家の前の階段に、金髪の少年が座り込んでいる。コンビニのロゴが入った紙コップを口に運びながらスマホをいじる姿は、よくコンビニの前でたむろしている若者を思わせる。
(……誰?)
あきらかに誰かを待っているのは分かるが、中学生くらいの男の子の知り合いなどいないし、義母は目立つ髪色をした──、つまり、チャラい若者を毛嫌いしている為、そっちを訪ねてきたとも考えにくい。
ゆっくりと歩み寄ってみる。葵が近付くにつれ、少年の方もようやく葵に気付いた。葵の顔を見るなり、ぱあっと笑顔を貼り付け、跳ねるように立ち上がると尻に着いた土埃を払った。まだあどけない顔をしているが、葵よりも頭ひとつ分背が高い。
「葵ちゃんっしょ?」
初対面なのに馴れ馴れしい。それに、年下のくせにタメ口なのが受け付けない。
目の前まで寄ってくるなり、葵の顔を覗き込むようにしてまじまじ見る。距離をとろうと一歩下がるが、相手もそれに合わせて一歩踏み出した為、せっかく離した距離が相殺される。それを三度繰り返したところで、葵はようやく諦めた。
「……だ、誰ですか?」
言ってから、なぜこっちが敬語を使わなければならないのかと、身の内で不満をもらす。
「オレオレ、聞いてない?」
知るわけがないだろう、と思いはするが、口には出さない。
「あんたの義弟」
「えっ……ええっ!?」
「和真。カズでいいよ」
自分を指差しながら軽い口調で言うのに対し、葵は反応が追いつかない。
「な、んで……」
「だって、家、誰もいないんだもん」
「や、そうじゃなくて。なんでここにいるの?」
「は? 決まってんじゃん。会いにきたの」
和真は葵を指すと、紙コップを道端に投げ捨てた。
「ちょ、ちょっと! ここに捨てないで──」
転がったゴミを拾おうとする葵の手を、和真が掴み、引っ張った。
「いこっ」
「ど、どこに!?」
「やっと会えたんだしさ、なんて言うの? ……世間話? したいじゃん」
「じ、じゃあ……」
ウチで、と言いかけて思い直す。昨日の今日で部屋は散らかったままだし、義母が帰ってきたらまた修羅場は避けられない。
「いいよ、外で。腹減ったし、なんか奢ってよ」
「はあ?」
いきなり訪ねてきたくせに、なんて図々しい奴だ。
手を引かれながら、自分に義弟いるという実感はわかなかった。
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