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いくらファミレスが安価といえど、学生にとって二人分、しかも育ち盛りの男子が食べる量を支払うのはキツい。
四名席のソファに向かい合って座りながら、葵は和真をじとっと睨んだ。
「ねえ……、ちょっとは遠慮してよ」
「え? してるよ?」
「してるの!? これで!? 今あまりお金持ってないんだけど」
「葵ちゃん貧乏なの?」
「いや、家に帰り損ねたし……。てか、その葵ちゃんっていうの、やめて」
「なんでさ?」
いちいち理由を言わないとわからないのだろうか。葵は身の内でごちる。
そんな葵の心境も知らずに、和真はニコニコと人懐っこい笑みを向けている。
どうやら失礼な態度は無自覚らしい。
「もういいよ……。それで、和真くん、だっけ?」
「カズ!」
即座に訂正されるが、正直どっちでもいい。
頬いっぱいに詰め込む様はハムスターのようだ。
「……カズくんね」
「義弟に〝くん〟付けって変じゃね?」
それを言うなら義姉に〝葵ちゃん〟もおかしいだろう。
しかし、初対面でそうも言い返せない。
「じゃあ、カズ……」
「ん!」
満足したのか、和真が頷いたので、ようやく本題にはいる。
「なんで家を知ってるの?」
「あー、それね。オッサンのスマホにGPSアプリ入れといたんだ。あんくらいの歳の奴って、なんで気付かないかね」
見覚えないアプリ入ってたら普通気付くっしょ、と無邪気に笑うカズに、苦笑いで返しながら、背中にゾクッと冷たい感覚が走る。
(今どきの中学生、怖っ!)
小さくため息をついてから、できるだけ柔らかく、諭すように言う。
「それ食べたら帰んなよ。暗くなっちゃうから」
「やだよ」
「嫌でも帰って。あんたまだ子供なんだから」
「は? なにそれ?」
和真がムッとして箸を止めたので、今のは不味かったかもしれないと、不安になった。年下とはいえ、男子、しかも不良を相手に抵抗出来る自信はない。
ところが和真は、すぐにまた屈託のない笑顔に戻り、葵は内心ほっとする。
一旦、自分を落ち着かせようと、紅茶に手を伸ばした。
「葵ちゃん、高校でたらどうすんの?」
「まだ、わからないけど……」
「一緒に住もうよ」
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