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急に和真が、はっとしたように目を見張って葵を見つめる。
「葵ちゃんってさ、超能力あんでしょ?」
「……えっ?」
葵は内心ギクリとしたが、平静を装った。
自分の抱える〝枷〟を他人に話したことは一度もない。
「オレが生まれたの、言い当てたんだって? それで揉めたって聞いた。ま、それは良いんだけどさ。ねえ、今もそれ出来るの?」
「そんなのあるわけないでしょう。……そんなこと、全然覚えてないし」
「えー!? それで一儲けしようと思ったのにー!!」
「……は?」
くっそー、と頭を抱える和真を、冷めた目で見る。
「テレビとかバンバン出てさ、とにかく有名になれば金にも困んねぇじゃん? 結果、オレら楽して暮らせんじゃん?」
「……バカじゃん」
(なに言ってんのこいつ……)
やはり世間知らずだ。おまけに頭も悪い。
そんなに世の中あまくない事は、家庭環境からいくらでも学ぶ機会があっただろうに。それに──、
(なんでこんな能力見せびらかさなきゃいけないのよ!)
このせいでどれだけ嫌な思いをしてきたことか、大切なものを壊してしまったか……。
(──こんな、争いの種にしかならないモノ!!)
葵は呆れと同時に、身の内でフツフツと込み上げる熱を感じた。
「やっぱりまだ子供だわ。高校くらいはちゃんと出ておきなよ。じゃないと、将来やってけないよ」
「──は?」
イライラしながら口をついて出た言葉に違和感を感じた。いかにも養父母が言いそうな台詞だった。
本当はそんなことを言いたかったわけじゃない。これでは頭ごなしに否定された気持ちになる事くらいわかっているのに、嫌いな大人達の口調が自然と出てしまった自分に嫌悪感を抱いた。
案の定、和真が睨みをきかせながら、声を尖らせる。
「そっちだってガキじゃん。 無理に大人ぶんなよ。つまんねーから」
「はあ? 急に押しかけといて、どっちがガキよ」
言い返されてカッとなるのを、やっとのことで押さえ込み、冷静なふりをして言い返す。
和真は冷めた目を向けながらソファの背にもたれ、面倒くさそうに溜息をついた。
「それそれ、そーゆーとこ。ほんとはムカついてるくせに、ガキ相手には怒鳴りませんってな態度? あのオッサンそっくり」
「うるさい!!」
自分でも驚くくらい、大きな声が出た。
周りの客や店員の視線が、一斉に葵たちのテーブルに集中した。
一番言われたくない台詞だった。
(……そっか)
葵はようやく気が付いた。
ずっと自分が一番悪いのだと思っていたが、それ以上に──。
(私は養父母を軽蔑している)
幼い頃からずっと、家庭を壊したのは自分のせいだと思っている一方で、心のどこかでは、自分はあの人達のようにはならない、と思っている。
「ムカつくよ、大人にふりまわされんの」
和真がぼんやりと、天井を見つめながら、無気力に呟く。
「養う代わりに所有物になれってんなら、生んでんじゃねーよ、ってな」
葵は返事が出来なかった。
逃げたい気持ちは痛いほど分かる。逃げられたとして、その先の生活に自信がないのも。自信がない者同士でどうにかなるものなのか、葵はまだ社会の事をよく知らない。
けれど、葵が和真を受け入れられないのには、別の理由があった。
(なんていうか、私だけ追い出されるって感じ)
和真には面倒を見てくれる仲間も、家族もいる。あんな養父にだとしても、和真は選ばれたのだ。そしてなにより、本物の〝血の繋がり〟がある。
対して葵は卒業と同時に捨てられる。血の繋がらない家族の絆は、虚しいくらい希薄なものだ。
逃避と追放、同じ境遇なのに正反対の立場にあるカズとは、仮に一緒に住んだとしても上手くやっていける気がしなかった。
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