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「ゴチです。あと、急に来てごめんね?」
駅に着くなり、和真が顔色を伺うようにいった。一応、最低限の礼儀はあるらしい。葵は少し意外に思った。
「いいよ……義姉弟なんだから」
「へへ、ありがと」
照れ臭そうに笑う表情は、年相応の可愛らしい少年で、葵もつられて微笑った。
夕日が半分程沈んだ空は、細く長い雲を赤く染めあげている。
「なんかさ、葵ちゃんって浮いてるよね」
「……え?」
和真が真面目な表情をしている。
どういう意味なのかわからず、葵は戸惑った。
「言うことはテンプレでつまんねーのに、なんか……はみ出してるよなあ」
「──なにそれ」
葵が不満げに言うと、和真は「いや、なんとなく」と付け足した。
和真が言わんとしている事は、葵があの祠に感じているものと一緒なのかもしれない。
〝はみ出し者〟
和真が何気なく言ったその言葉が頭の中にこびり付き、心に影がさした。
──が、突然肩を叩かれて我に返る。
「ま、気にすんなよ! そのうち面白い事も言えるようになるって!」
「別に芸人目指してないけど」
ズレまくった励ましを受けてもちっとも嬉しくはないが、和真が剽軽に笑うのを見ているうちに、気持ちが軽くなった。
こういう性格が年上に愛される理由だろう。
「次はそっちが会いに来てよ」
「うーん、ご馳走してくれるなら」
「えー、義弟にたかる?」
「初対面でたかる人に言われたくない」
二人同時に笑う。
最初は驚いたが、なんだかんだで和真に会えて良かったと思えた。
改札を通る義弟の背中を見送りながら、無性に彼の持つ全てが羨ましく思えて、同時に自分が情けなくなった。
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