行き場

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 住宅街の道端に(うずくま)って、嗚咽の混じった声をもらしながら泣いた。  今夜はきっと帰れない。帰ってはいけない。だからといって、明日帰れるかもわからない。 〝はみ出し者〟  その言葉が葵に付き(まと)う。それを否定出来ない(むな)しさが、身の内に広がっていく。  胸に溜め込んだものを吐き出すように泣きはらした。  しばらくそうしていると、少しだけ頭が冷静になってきた。深呼吸して、状況を頭で整理する。  とにかく今は、一晩だけ(しの)ぐ場所が必要だ。立ち上がって、唯一持ってきたスマホの画面を触る。  咄嗟にスマホを拾ってくるなんて、とっくにこの脳はスマホに侵されている。  画面は和真(かずま)からのメッセージが開いたままになっていた。 【家ついた? 今日はありがと。またあそぼーね】  最後にふざけたキャラクターのスタンプがついている。見かけによらず、マメな性格なのかもしれない。  一瞬、カズに連絡しようかと思ったが、義父の愛人の息子、という関係を考えると手が止まった。愛人の家に泊まるなんて、それこそ義母との関係に(みぞ)を作るばかりだ。  思い直して、今度はナナとのメッセージ画面を開く。 (さすがに迷惑かな……)  迷ったが、思いきって通話ボタンを押した。  コール音が鳴る。が、しばらく待っても応答がない。  深い溜め息が出た。タイミングが悪かったのかもしれない。 (どうしよう……。でも、もしかしたらナナから折り返しがあるかも)  それが最後の頼みの綱だと、自分を励ます。  とにかく誰かに話を聞いて欲しい。今こういている間にも溢れ出る想いを吐き出したかった。それが出来る相手は、もうナナ以外に思い浮かばなかった。  自分の交友関係の(とぼ)しさに、今更愕然とする。 (ナナんち、行ったら迷惑かな……)  泊まれなくたっていい。ほんの少しだけでいいから話を聞いてもらって、ついでに「大変だったね」と言ってもらえたら、きっとそれだけで落ち着ける。その後のことは、それから考えよう。  ぐちゃぐちゃな頭で結論を出すと、(わら)にもすがる思いで歩き出す。  こんなに人肌恋しく思うのは初めてだった。
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