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ナナの家から少し離れた公園のブランコに腰掛けて、スマホを握り締めながらナナからの連絡を待つ。さすがに家の真ん前では迷惑だろうし、不審者だと思われるのも嫌だ。
藁にもすがる思いで来てはみたが、暗くなった公園で、ひとりぼっちで待つというのはなかなか辛いものがあった。
(このまま連絡がなかったら……)
いやそんなことはない、と顔を横に振ってネガティブな考えを払った。今までもナナは必ず返信をくれていたのだから、今日に限ってそんなことあるはずがない。
(ダメだ、心折れそう……)
どんどんナーバスになっていく自分を止められない。
自分が今、大人だったなら、こんな目に遭わずに済んだのだろうか。狭くて、少しくらいボロくても、当たり前に帰れる自分だけの家が……。
少なくとも玄関の扉に手を掛ける度、憂鬱になることもきっとないのだ。
(こんなことなら、中卒で働いてた方がよっぽどマシだったかも……)
和真の言っていた事が、今更身に染みる。あの時、偉そうに説教した自分が恥ずかしくなった。
『 無理に大人ぶんなよ。つまんねーから』
和真に言われた台詞が胸に突き刺さる。
(ほんと、そのとおり……)
葵は身の内で自嘲した時、コンクリートを踏むヒールの音が聞こえてきた。その足取りはスキップでもしているかのように軽やかで、浮かれているのが伝わってくる。
見えた人影は葵が待ちわびていた人で、たまらず立ち上がって駆け寄った。
「ナナ──!」
振り向いたナナは、葵を見るなり目を泳がせた。
こんな時間に押しかけたから驚いたのだろう。
「あ、あおちゃん……!? こんな時間にどうしたの?」
「ごめんね、急に。あの、あのね、聞いて欲しくて」
言いながら視界がみるみるぼやけ、歪んでいく。
「ど、どうしたの? とりあえず、落ち着こう?」
取り乱す友人を前にして、ナナは慌てたように葵の手を、両手で握った。
その瞬間、頭の中に映像が流れ込んだ。
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