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「あおちゃーん!」
本土の方からの呼び声が賢者タイムの終わりを告げる。
このまま考え続けていたら、徐々にネガティブな方へ落ちていってしまう。考え過ぎるのも良くないと分かっているのに、ついその傾向に陥るのは葵の悪い癖だ。
狙ったのかどうかは定かじゃないが、声の主はまさにグッジョブだ。その声が誰なのかは、この秘密の場所を知り、わざわざ葵を呼びに来る人物はごく限られるので、すぐに予想がついた。
「ナナ…… 」
立ち上がって制服のスカートに着いた草や土を手で払うと、手漕ぎボートを寄せた岸へと階段を下る。
反対側の岸の赤い鳥居の下に、同じ学校の制服を着た少女がピョンピョンと跳ねながら、これでもかと大きく両手を振っている。ツインテールにしている赤みの入ったブラウンの髪が、まるで兎の耳のようで可愛らしい。何度も跳ねるせいで、短く調整されたスカートがリズム良くめくれ上がり、今にも下着が見えそうだ。
葵はハラハラしながら手を振り返し、手漕ぎボートに乗り込むと、オールに手を伸ばした。
『……が……うす』
一瞬、手を止めたが、構わずオールを取り、急いでボートを漕ぎ出した。
(またか……)
直接頭の中に響く感覚。それが誰の仕業でもない事を知っている。
スイスイと、後ろ向きに進みながら遠ざかる島を端から端まで眺める。
もちろん、島には誰も居ない。
(なんでもない、大丈夫)
早くナナの元へ辿り着きたくて、手に力を込めた。
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