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「まーたここに居たの?」  ぴょこん、とナナが段差に飛び乗って振り返った。その仕草が小動物みたいでクスリと笑ってしまう。 「うん、あまり家にいたくないし」 「そっか……。ね、買い物行こうよ! 新しい服も欲しいし、付き合って」 「うん!」  ナナは今どきの愛くるしい女子高生だが、他人の悩みに無粋に首を突っ込んだりせず、こちらが話したい時には、静かに耳を傾けてくれる。  葵にとって、一緒に居ても肩の力を抜ける、唯一の友人だ。 「で、(のぶ)くんに告んないの?」  二人並んでコンクリートで舗装された大通りに出ると、ナナが核心をついた。こちらの行動パターンは読まれているらしい。  葵は笑って誤魔化そうとしたが、当然、通用しない。 「さっさと言わないと、先越されちゃうよー?」 「で、でも……」  ピシャリと言いきられてぐうの音も出ない。  信人(のぶと)は近所に住む幼馴染で、その明るい性格から男女問わず人気がある。小・中と同じ学校だったが特別仲がいいわけでもなく、話した事もあまりなかったが、葵はずっと、密かに想いを寄せていた。それが顔に出ていたのか、すぐにナナに見抜かれ、それ以来早く告白しろ、と(あお)られる日々である。 「私なんかじゃ……」 「なんかってなによ?」 「だ、だって……」  葵は自信なく目を伏せた。  告白する気がないわけではない。しかし、自分に(まと)わり付く、気味の悪い〝(かせ)〟が、いつも葵を思い(とど)まらせた。  これまで葵が必死に築き上げた人間関係を、この〝枷〟が片っ端から壊していった。 「はあ……。 グズグズしてると、(のぶ)くん……とられちゃうよ?」  呆れるように言うナナの表情(かお)は、(うつむ)いているせいで見えない。 (気を悪くさせちゃったかな?)  不安になって慌てて言い訳する。 「そのうち、きっと言うから!」 「そう言ってもう一ヶ月たってる」 「そ、そうだっけ?」 「そうですー!」  額をツン、とつつかれた。大きなアーモンド形の目を細めて睨む顔が、怖いよりも可愛らしくて全く迫力がない。  葵はほっとした。どうやら機嫌を(そこ)ねたわけでは無いらしい。  ナナとは高校を卒業しても、ずっと友人関係を続けていきたい。 「明日こそ、学校でいいなよ? なんなら、あおちゃんが言いやすいように、私がお膳立(ぜんだ)てしてあげる!」 「いや、それはちょっと……」 「だめだよ! そうでもしなきゃ、またうやむやにするんだから!」 「そ、そんなこと……。ほんと、いいから!余計なことしないでよ?」 「えーなんでよ!」  まずい、と葵は焦る。ナナはやると言ったら本当に行動を起こす。 「ほんと、本当に勘弁してください!」 「えー……」  それだけは!と必死に懇願(こんがん)すると、ナナは口を曲げて不満をあらわにしながらも、しぶしぶ頷いた。 (あ、あぶな……)  葵はまだバクバクしている心臓を落ち着かせていると、今度は悪巧(わるだく)みを含んだような笑顔を貼り付けて、葵を見上げた。  ナナがこの表情(かお)をする時は、決まって何かをねだる。 「じゃ、買い物付き合って?」 「良いけど……」  〝じゃあ〟って何だ、と身の内でつっこみながら、数駅離れた街にあるショッピングモールへと足を向けるのだった。
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