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私と北斗に呆れ果てたリーはそのまま何も言わずにどこかへ行ってしまった。この2年の間にもこういうことは、度々あったので、リーの怒りが収まったらすぐに戻ってくるとわかっているので私も北斗も後を追いはしなかった。
《良いんですか? あたしのせいで仲間割れなんて、止して下さいよね。寝覚めが悪すぎますから》
「大丈夫よ! リーは大人だから、しばらくしたら戻ってきてくれるわ! そんなに心配しなくて大丈夫よ!」
「それにしても、アランのやつもちょっと遅くねえ?」
「そうね。どうしたのかしら?」
外の様子を確認しに出て行ったアランもあれからまだ戻っていなかった。
「チェリー! お腹空いた。朝ご飯、どうするの?」
「ああ。そうだった! ユーチェンと琥太郎で朝はこれだけ食べて」
「うっわー! ツナの缶詰!? 良いの?」
「うん。まだ、蓄えは何とかあるからね。カンパンと一緒に食べなさい! あんたたちは育ち盛りなんだからね!」
「「ありがとうー!!」」
これまで、ユーチェンも琥太郎も食べ物という食べ物にありつけていなかったようで、昨夜も、何度も私たちに大丈夫なのかと確認しながら手渡された干し肉を食べていた。この子たちのためにも、食べ物をまた確保しなければ……。
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「おい! チェリー? 眉間にしわが寄ってるぞ!!」
「えっ!? あああ、あはは。北斗、どうしようか? 食料をどこで確保する?」
「ショッピングセンターは望めないだろ? 悪党たちがごっそり自分たちのアジトに確保してやがるだろうからな!」
「ということは……。やるしかないのね?」
私と北斗が真剣にこれから食料を確保するためにどう行動するかを算段していると、アランが大きな布袋を抱えて戻って来た。
「アラン!! どうしたの? それは何?」
「へへへ。これは、オレが隠していた荷物だ。地下の住人たちに預かって貰っていたんだ」
「地下の住人? 何? 人間なの?」
「まあ、正確に言えば『人間だった奴ら』だな!」
アランがルディーに同意を求めると、話を聞いていたルディーは大きく頷いていた。
《お兄さんはもうすでに地下の住人とお知り合いだったんですね!!》
「ああ。色々とな! 生き延びれたのも奴らのお陰だ」
「あの……アラン? ところで……リーには会わなかった?」
「へへへ。奴ならロビーで頭冷やしてるみたいだぜ!」
アランが言う『地下の住人』は私たちにとっては、どうやら味方のようなので私はホッと胸を撫で下ろしてから、リーのことをアランに尋ねるとやはり、すでにリーは戻って来ていたようだった。
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アランの持って帰って来た布袋の中からは、たくさんの非常食が出て来てユーチェンと琥太郎がその中に板チョコを見つけて釘付けになっていた。
「これは、だいじな貴重な糖分だからな! いっぺんに食うんじゃねえぞ!! ほらっ! 一つずつ持っとけ!」
「えええー!? 良いの? 貰っても良いの?」
「チョコレートなんてもう食べられないと思ってた。アラン、ありがとう~♪」
アランに一枚ずつ手渡された板チョコを手にした幼い二人は、嬉しそうに声をあげてアランにお礼を言うと板チョコに頬ずりしていた。
そんなことをしている間に何食わぬ顔をして、リーは私たちのすぐ側へ戻って来ていた。
「それで? しばらくここで寝泊りするのか? リー?」
「そうですね。アランはどうですか? この辺りのことはあなたの方が詳しいようなので一任したいのですが……」
「ここも、特に安全ではないんだがな。屋根のある建物がこの辺りはほとんど残ってねえから、寝泊りするなら今のところはここが妥当だろうな!」
アランとリーの会話から、どうやらしばらくの間はこのホテルで滞在することに決まりそうだった。
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私はアランとリーの会話を耳で聞きつつ、もう一度ランドリールームの中を見渡していた。戦争による空爆で建物の半分の屋根が吹き飛び、別棟のこのランドリールームと調理場のある部分だけがかろうじて雨風を凌げる状態だ。ホテルの周りの建物は全てと言っても良いほどに、もう建物ではなくて瓦礫の山と化していた。
「地下へは? 地下へ行けないの?」
「ああ。地下……か?」
《地下の住人は、悪い奴らではないんですがね。あれでちょいと難儀な性格というか、体質というか……血を吸うんで……》
私に地下へ行けないのかと問われて、アランが訝しげな顔で言葉を濁していると、ルディーがそれを見かねて私の耳元で地下の住人が吸血鬼であることを教えてくれた。
「吸血鬼なの? 本当に?」
「まあな。本当だ! この荷物も預ける代わりにオレの血液を100cc程奴らにくれてやったんだ!」
「味方ってわけでもなさそうなのね?」
「嫌っ! そうでもないんだ。上手く付き合えば心強い味方なんだ。等価交換って奴さ!! オレもそれで生き延びれた」
巨大化してモンスター化した昆虫たち、言葉を話す動物に特別な能力を得た人間。そして、吸血鬼化した人間……。本当にこの世界はどうなってしまったんだろう。アランとルディーの話を聞きながら、私はまた心の中でこの世界のことを嘆いていた。
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