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このまま悩んでいても始まらないので、私も北斗もまずはルディーが教えてくれたこの街の悪党のいる倉庫をリーに許可をもらって、二人で偵察に行くことにして準備を始めた。
「どんな能力者がいるか、わかりませんからね! 気をつけて下さいね! 私はユーチェンと琥太郎を連れてアランの言う、地下の住人の所へ行ってみます」
「わかった! こっちは、ちょっとその悪党の倉庫の中がどんな風かをチェリーと見に行って来るぜ!」
《入り口までは私が案内しますよ。ああ、それとですね。悪党たちのボスの能力は姿が消えるんです。……透明人間ってやつですね》
私たちが倉庫へ行くとわかって、ルディーは悪党のボスの能力を慌てて思い出したように教えてくれていた。
「透明人間か……面倒なやつだな! 面と向かっては戦いたくねえなぁー」
「出来るだけ、やつらには接触しないようにしなくちゃね!」
悪党たちには姿を見られるだけでも、かなりの危険度が増すから出来る限り自分たちの姿を見られないように行動したかった。
北斗の時間を止める能力と、アランの目の前の敵を消してしまえる能力があれば無敵と言えば無敵なんだろうけど……。
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私と北斗はルディーとホテルを出て、瓦礫の影を進んで悪党たちの拠点になっている倉庫の前まで来ていた。
「なんか、ドキドキする。中にいるやつらは、皆……能力者なんだよね?」
「能力者以外の人間なんて、いないだろうしな。ま、わかんねーけどさ」
《気をつけて下さいよ! 無理は絶対しちゃいけません。特にボスは本当にずる賢い奴なんで気をつけて下さい》
心配そうにしているルディーをおいて、私と北斗は時間を止めて中へ潜入した。
想像していたよりも、かなりの人間が倉庫の中にいて……どの人間も大きな斧や剣。それに、ショットガンやライフルに日本刀に手榴弾なんかを当たり前のように誰もが装備していて、まるで軍隊のようだった。
しかし、どこか違和感を感じた私は一人一人の表情を良く見比べて、あることに気付いた。
「この人たち、悪党っていうよりも寄せ集めの兵士みたいに見えるんだけど?」
「そりゃ、あれじゃねえか? 本当の悪党は別にいて、こいつらを束ねてるんじゃねえのかな?」
「そうよ! きっとそうだわ! だって、どう見ても悪党っぽくないわよ!」
倉庫の中を散策しながら、無理やり武装させられているようにしか見えない男たちを私と北斗はもう少し良く確認して回った。
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これだけたくさんの人間を見たのはとても久し振りだったので、もっと中を良く見て回りたかったけれども、北斗が時間を止めていられるのは、ほんの数分なので……急いで中を見て回って、どれくらいの人間がいて食料や武器をどれくらい蓄えているのかを確認して外へ出た。
「こんなにまだ、人間がいるなんて思いもしなかったわ!」
「ほんとだな! それにしても、これだけの人間を束ねてるボスって何者なんだ?」
「そうよね! ただの悪党がここまで規律を保てるはず無いよね」
私と北斗は、ホテルに戻りながら倉庫にいた軍隊のような人間たちのことを本当に悪党なのかどうかを疑い始めていた。
《おかえりなさい。無事で何よりです。それで? 倉庫の中はどうでしたか?》
「ねえ、ルディー? あの人間たちは、本当に悪党なの?」
どうしても、あそこにいる人間すべてが悪党には思えない私は、ルディーに直接疑問を投げ掛けてみた。
《お嬢さんは、賢いお方ですね。ふふ。確かに奴ら全員が悪党では、ありません》
「やっぱり!?」
「ルディー! どういうことなんだ?」
私の疑問にルディーは、嬉しそうに翼をバサバサしながら奴ら全てが悪党では無いということを暴露してさらに話を続けた。
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《奴らのほとんどは、生きるために仕方なくあそこにいるんですよ。生き延びるためにね》
「ということは、ボスは本物の悪党ってことよね?」
《そういうことです。ボスと幹部の5人の能力者が弱い能力者たちをあっちこちからさらって来て、無理やり兵隊にして働かせているんです》
ルディーから、本当のことを聞かされた私と北斗はこの時……多分、同じことを考えていたと思う。
迷うことも無く、私も北斗もお互いの目を見て頷くと、ホテルに戻ることを止めて再び倉庫に向かっていた。
《ちょ、ちょっと!! 待って下さいよ! そりゃ、危険ですよ! もう少し様子を見て、作戦くらい練らないと!》
「止めたって無駄よ! 北斗も私もやるって決めたらやるんだから!」
「そうだ! オレがなんとかしてやるから、黙って待ってろ!」
予想していなかったであろう展開に、倉庫の前で慌ててオロオロしているルディーを残したままにして、再び時間を止めて私と北斗は中へ入って行った。
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私と北斗は再び時間を止めて倉庫に入ると、すぐに気の弱そうな男の時間を戻してここから逃げる意志があるかを確認することにした。
「な、何だ!? 誰だ? お前ら!」
「驚かしてごめんなさい! 私は、チェリー。こっちは北斗よ♪ あなた、ここを出たくない?」
「そんなこと、出来るわけ無いだろ!」
「そう……。ということは、出来たら逃げるってことなのね?」
私が男の瞳を見据えて問い詰めると、男は慌てて首を縦に何度も振っていた。
「オレたちが逃がしてやる。だから、他に連れて出たい奴を教えてくれ!」
「ああ。それなら、そこにいるじいさんとこいつ! ここに来てからずっと一緒に頑張って来たんだ。だから、置いてなんて行けねえ!」
仲間と一緒に逃げることが出来ると知って、男は行動を共にしていた男二人を指差していた。そして、北斗はその二人の時間も戻して男たちに早く外へ逃げるように指示していた。
私も北斗も中にいる全ての善良な人たちを助け出したかったけれど、止めていられる時間が限られているので、今日のところは三人の男たちをホテルに連れて帰ることにして二人で倉庫の外へ出た。
《無茶しないで下さいよ! とにかく、急いで戻りましょう! ボスのBADの奴が戻って来ないうちに早く!!》
「ボスってBADって言われてるの?」
《そうですよ! 容赦無く気に入らない奴は殺してしまうから、そう呼ばれてるんですよ!!》
ルディーは、声を低くして答えるととにかく早く逃げろと私と北斗の背中を翼で強く押していた。私と北斗が男たちに追いつくと、ルディーはホッとした表情で空高く飛び上がって先にホテルに向かって飛んで行ってしまった。
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