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姿の見えない敵に対して誰もが成す術も無く……結局、私は透明人間に抱えられたままその場から、連れ去られてしまった。
悪党たちの集まる倉庫に戻ったボスは、私を乱暴に床へ下ろすとその姿を現した。
私の瞳に映るBADと呼ばれる悪党たちのボスは、想像していたよりも若くてかなりのイケメンだった。とても悪党のボスになんて見えやしない。私は何かしら違和感を感じながらもボスに向かって冷たく悪態ついてみた。
「私なんかさらってきてどういうつもりなの? もしかして、イヤらしいことを考えてるんじゃないでしょうね!」
「喧しい!! お前のその能力が必要なんだよ! イヤらしいことなんて……まあ、少しくらいは考えるかもしれねえが……」
「ちょっと!? 少しも考えないでよね!! それに、どうして私の能力を知ってるのよ?」
「ああ。お前がオレに蹴躓いただろ? オレはあの時、動けない振りをしてたのさ」
この間、倉庫から逃げる途中に北斗の能力で時間を止めていたあの時、この男は動けなくなってしまっていたのではなく……自ら動かずにこちらの様子をじっくりと伺っていたようだ。
「マジ? 何故? 何故あなたには能力が効かないの?」
「そりゃ、教えられるわけねえだろ!(笑)」
「でしょうね。でも、私の能力はあなたには必要ってことなのよね?」
「まあな。こっちも色々とあんだよ!」
ボスはそう言って苦笑すると、私の腕を掴んで歩き出した。
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「痛いでしょ!! 逃げたりしないから、そんなに強く握らないでよ!!」
「気の強い女だな!(笑)」
掴まれている手首が痛くて我慢出来なかったから、腕を振り払おうとしながら私がボスの顔を睨みつけて怒鳴るとボスは笑いながら少し力を緩めて私の顔を覗き込んで来た。
「名前、チェリーだったっけな?」
「そうよ! だから何なのよ!?」
「この世界がこんな風になっちまってから、女には縁が無くてな!」
「だから!! イヤらしいこと考えないでよね!!」
私の手首を掴んでいたボスの右手が、いつの間にか私の腰をしっかりと抱いて歩いていることに気付いた私は、かなり自分の身が危ういのではないかということをひしひしと感じていた。
「どこに連れて行くのよ?」
「助けて欲しい男がいるんだ」
「助ける?」
「ああ、そうだ。お前にしか…やつは助けられねえ」
入り口からかなり奥まで進むと、隠し扉のような扉が床にあってその扉を開けると地下へ降りる梯子が見えた。
「ここだ!!」
「えっ!? 地下なの?」
「そうだ。地下にいる……足元、気をつけろよ! 下は暗いからな!」
「わかった。行くしか選択肢は無いみたいね」
地下へ伸びた梯子にボスが先に足をかけると、こちらに向かって腕を伸ばして来て私を抱えるように支えになって、下までゆっくりと降りて行った。
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地下へ降りると、確かにボスの言うとおり辺りは真っ暗で何も見えなかった。
「ここにその男の人がいるのね?」
「まあな。この奥だ!!」
ジメジメと重苦しい地下の通路は、湿気で苔でも生えているのか? 油断していた私は足をつるっと滑らせてしまって、慌てて横にいたボスの腕にしがみついていた。
「お嬢さんから抱きついてくれるなんて感激だぜ!!」
「誤解しないでよね!! 足が滑っただけなんだから!!」
「へいへい! わかってるよ!」
薄暗い懐中電灯の明かりの中を、ゆっくりと進んで行くと鉄の大きな扉が見えて、ボスが立ち止まって私の顔をジッと見つめてから口を開いた。
「先に言っとくが、やつはあんまり良い状態じゃねえから驚いて大声あげんなよ!」
「わかった。わかったけど、どんな状態なのよ?」
「それは、見りゃわかるさ! 行くぜ!」
勢い良くボスが鉄の扉を開けると……そこには何かが確かに横たわっていて、その何かはヌルヌルとした細い沢山の茎をあちこちに絡ませて、この場所に深く根付いて見える気味の悪い巨大な植物のようなものに全身を覆われてしまっていた。
「これ……何なの……!?」
「こいつは、寄生植物ってやつさ!」
「寄生植物ですって!?」
「だいたいは、地下の奥深くに生息してるみたいだが……こいつはこの街の、ど真ん中に現れやがったんだ!」
初めて見る寄生植物に大声を上げるどころか、驚きと恐怖を間近で感じたことで、言葉という言葉を私は口にすることが出来ないでいた。
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見たことも無い巨大な寄生植物を目の当たりにして、私が肩を小刻みに震わせていることに気付いたボスは、優しく私のことを庇うように肩に腕を回してギュッと私を抱きしめていた。
「やっぱ怖いか?」
「そうね。こんなの……初めて見たから」
「こいつを助けるのを手伝ってくれ!」
「助けるって! どうやるのよ?」
私の目を真っ直ぐに見つめて、ボスはこの寄生植物から仲間の男を助ける手助けを私に求めていた。私は、さすがにどうやって助け出すのか想像もつかなくて、声を大にしてボスに向かって叫んでいた。
「オレと仲間がこの化け物をこいつから切り離して焼き尽くしている間に……チェリー、お前は全力でこいつを回復させてくれ!!」
「そういうことね。……わかったわ! やってみましょう!」
私が男を助けることを承諾すると、ボスは仲間を数人呼び寄せて男から化け物を引き離す作業に入った。
怪力の能力を持つスキンヘッドの大男が周りの太い茎を引き千切り、もう一人の赤い短い髪のすっごく目付きの鋭い大男が手の先から炎を出して千切った茎や幹を焼き尽くしていた。小柄でやせ細っていて背中が丸く老婆のように曲がってしまっている気味の悪い白髪の男は指先を鋭利な先の尖った刃物に変えて、男の身体から細い幹や茎を少しずつ切り離していった。
「ううううぅぅ……」
「あと、あと少しだ。あともう少しだ!!」
「ちょいとボス!! こりゃまずいですよ!! 心臓に絡み付いちまってる!!」
「マジか!? どうすりゃ良いんだ……」
少しずつ男から化け物を切り離していた仲間がボスに最悪の事態を告げると、ボスが叫び声をあげながらその場にしゃがみ込んでしまった。
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そんな、ボスの姿を眺めながら私はふと北斗の能力を思い浮かべてハッとして叫んでいた。
「ちょっと!! 諦めるには早いわよ!」
「なんだ!? 何か良い手があるのか?」
「北斗なら、時間を止めていられるから、その間に何とか心臓から切り離せるかもしれないじゃない!?」
「しかし、やつが協力しやがるかわかんねえし……」
急に弱気になって女々しいことを口にして項垂れているボスと男たちに向かって、私はイラッとしてついにぶちギレて怒鳴り声をあげていた。
「大の男が揃いも揃って、情けないことばっか言ってないで! 私をエサにしてさっさと北斗を連れてきなさい!!」
「へ、へい!! わっ、分かりやした!」
「それじゃ、お前ら! 頼んだぞ!」
「早く行きなさい!! この人かなり衰弱してるから、私の能力を使っても早く化け物から引きはがさないと、長くは持たないわよ!」
大男たちは、私の言葉にもう一度飛び上がって返事をすると、扉をあけてすぐに梯子を登って地上に向かっていた。
「お前は逞しい女だな!(笑)」
「だてにこの世界を生き延びちゃいないわよ!! あなたたちも同じでしょ?」
「ああ。そうだな! オレもお前も同じかもしれないな!」
「だったら、諦めないで北斗を待ちましょう! きっと、大丈夫! 絶対に助けてみせるわ!」
寄生植物という化け物に取りつかれて衰弱仕切ってしまっている男の胸に両手をかざして、私は全神経を集中して能力を注いで男の命をつなぎ止めながら、北斗が来ることを心から祈っていた。
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