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男たちが北斗を呼びに行った後……。
残った私とボスは、しばらく会話の無い時間を過ごしていたんだけど、私にはどうしてもボスに確かめておきたいことがあったので、横たわっている男に手をかざしたままで私は一度深く深呼吸してから、その疑問をボスに問いかけていた。
「ねえ? あなたって、本当にBADって呼ばれて皆に恐れられてる悪党なの?」
「なんだ? オレさまのことが気になるのか? 嬉しいねぇー! 確かにオレはBADと呼ばれて今ではこの街で恐れられてるぜ? 悪党ってのは、まあ……隠れ蓑ってやつなんだけどな!」
「隠れ蓑?」
「ああ。こんな街で上手くやって行くには善人じゃ……すぐに身ぐるみ剥がれちまうからな! 情報屋に報酬を払って、偽の情報を流させてるんだ」
ここへ連れてこられてから、ずっと私が感じていた違和感はこういうことなんだと、ボスの話を聞いて妙に私は納得してしまった。
確かにこの街には、あちこちに色んな輩がいるみたいだし、自分から善人ですよ! なんてことを口にしていたら、きっと生きては行けないだろう。
それに、何が善で何が悪かも……今では区別出来やしないしね。
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「じゃあ、ルディーはあなたに雇われていたのね?」
「まあな。新しく街に入って来るやつにはあいつが必ずオレの情報を触れ回る。それがあのカラスの仕事だ」
「だったら、私たちが助け出した男たちはどうなの?」
「ああ。あいつらもああやって、相手を探るのが役割だ!」
どうやら、このボスはかなり頭がキレるみたいで仲間たちにしっかり役割を分担して報酬を与えることで、秩序のようなものをしっかりと築いているようだ。秩序が自然と築かれれば、少しは争いも減るから街が住みやすくなる。
「あなた、頭良いみたいね。少し感心しちゃったわ」
「おっ!? オレに惚れたか?」
「それとこれとは、別よ! 私は簡単に男に惚れたりしないの」
「そりゃ、残念だ。オレはちょっと期待してたんだがな!(笑)」
私の真横に立って馴れ馴れしく腰に回そうとしてきたボスの腕を私が叩いて払い除けると、ボスは苦笑いをしながら少し距離を取って私の顔を覗き込んでいた。
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そうして、小一時間くらいが経ったころ、地上が少し騒がしくなったので、男たちが北斗を上手くここまで連れてくることが出来たんだと、私はホッと胸を撫で下ろしていた。
「お前ら!! ほんっとにチェリーはこの下にいるんだな? いなかったり何か企んでいやがったら、ただじゃ済まさねえからな!!」
「大丈夫です!! さっきから、俺たちが言ってることは嘘じゃないんです。本当にチェリーさんはこの下でボスとボスの兄弟を助けるために北斗さんを待ってるんです!!」
「わかった! わかった! 早く案内しろ!!」
「へ、へい!!」
静まり返っていた倉庫中に北斗の怒鳴り声が響いて、地下にいる私とボスにも北斗たちの会話は丸聞こえだった。
「あいつら、こっちの事情を何もかもぶちまけて土下座でもして連れて来たみたいだな!!」
「まあ、良いじゃないの! あなたの大切な兄弟を助けるためでしょ?」
「まあな……」
北斗たちの会話を耳にしてボスは少し頭を垂れて苦笑していた。そんなボスを眺めて、私がクスクスと笑っていると北斗が男たちに案内されて地下まで降りてきたようで私の名前を何度も叫んでいた。
そして、北斗は私の姿を目にすると……ひと目も憚らずに私のことを背中から強く抱きしめていた。
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「愛の熱い抱擁は後にしてくれねえか? お兄さん!(笑)」
「うるせえ!! 少しぐらい黙って待ちやがれ!!」
「ちょっと!! 北斗! ほんっとに急いでやんなきゃ! この人死んじゃうんだって!! だから、お願い♪」
「……ちぇっ!! わかった。それで? どうすんだ?」
私に宥められた北斗は少し頬を赤く染めたままで、頭を掻きながらボスと私に目の前に横たわっている男をどうやって助けるのかと質問していた。
「まず、北斗が時間を止めるでしょ? そうして時間が止まっている間に、この人の心臓に絡みついている触手みたいなこの植物の細い茎を取り除くのよ!!」
「じゃあ。ここはやっぱり、アランの番だな!」
「えっ!? ……アラン?」
北斗の言葉に私が驚いていると、男たちに事情を聞いて北斗に無理やり同行して来たアランとリーとユーチェンと琥太郎が部屋の中に入って来た。
「チェリー!! 無事で良かった。心配しましたよ!」
「心配かけてごめんなさい。リー……それで、アランにこの植物だけを消してもらうことって可能なの?」
「ああ!! 出来る!! 大丈夫だ。前にそれに似たようなことに遭遇して絡みついた化け物だけを消したことがあるんだ!」
アランは私に向かって白い歯を見せて微笑むと、目の前に横たわっている男に絡みついた寄生植物を一瞬で消し去ってしまった。
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一部始終を一緒に眺めていたボスさえも、その瞳を皿のように丸くしてアランを見つめていた。
「ちょいちょい!! あんたたち……無敵か?」
「あはは。無敵と言われれば無敵かもしれねえけど、まだまだ色んな能力を持ったやつがいるだろうから、完全に無敵とは言えねえな!」
「それより! オレの能力がお前に効かなかったのは、なんでなんだよ?」
「あんまり、種明かしはしたくねえんだけどな。3時間だけ能力を無効化させるシールドを張れるやつが仲間にいるんだ。だから、オレはそいつにシールドを張ってもらっていたから動けたんだ」
やはり私が思っていたとおり、能力を無効化させる能力を持った仲間がいることをボスは渋々私たちに白状してくれていた。
全ての体力を回復させたボスの兄弟。弟分のジムは目を覚まして起き上がり自分の無事な姿に驚いてボスのBADに抱きついていた。
「兄貴!! ありがとうー!! ありがとう!!」
「おいおい!! 男に抱きつかれても嬉しくねえぞ!!」
皮肉を言いながらもボスの顔は喜びに満ちていて、少しその瞳には涙が光っていた。
「どうやら、この男たちが悪党というのは本当にデマだったようですね。不幸中の幸いといったとこでしょうかね?」
「ふふふ。チェリーが連れ去られた後、皆は大変だったもんね」
「ユーチェン! 余計なことをしゃべんじゃねえ!!」
私にしがみつきながらクスクスと声を漏らして笑っているユーチェンをキッと睨みつけて、北斗がすっごく怖い顔で何もしゃべるなと幼い二人を脅していた。
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