MONSTER

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********  アランの言葉を聞いた北斗は、身を乗り出してアランにモンスターのことを詳しく質問していた。 「ゲームの中に出てくるモンスターがこの街にいるのかよ? マジで?」 「ああ。マジ、嘘じゃねえ! ちゃんとこの目で見たんだ!」  アランの話によると、人とも獣とも違う。奇妙で恐ろしく獰猛なモンスターが夜の街を徘徊するらしい。 「どちらかと言うと、あれは昆虫じゃねえかな? オレが遭遇した奴はデカいムカデみたいな姿をしていやがった」 「そんなにデカいのか? もしかして、口から毒を吐いたりするんじゃねえだろうなぁ!?」  リアルなモンスターの詳細を聞いた北斗は、さらに楽しそうにワクワクしている様子でアランの話に夢中になっていた。 「すまん。そこまでは、知らねえんだ。気味が悪いから遭遇して速攻で消しちまったからな! オレは、うじゃうじゃ足がある奴はガキの頃から大の苦手なんだ!」 「ということはだ。能力は有効ってことはわかった訳だ! 良かったじゃねえか?」 「油断は出来ませんね。かなり用心して対処した方が懸命です」 「そうね。スッカリ忘れていたんだけど……。放射能の影響を受けて変異している生き物がいるってことは、日本にいた時にも耳にしていたことだしね」  運が良かったのか? 私たちはその突然変異したモンスターにこの2年間。一度も遭遇していなかったので、脳裏からそのことが薄れてしまっていた。 ********  どっちにしても、今日はここで夜を過ごすことに決まったので最低限の食事をしてから、廃墟となったホテルの中を北斗と散策してまわることにした。出来ればショッピングモールへ戻って、食料が無いか調べたかったんだけど…リーがうるさく外へ出るなと止めるので。私も北斗も渋々だけど、リーに従うことにした。  ホテル一階のフロントやロビーだったフロアの屋根は空爆をまともに喰らったようで、吹き飛んで崩れて空が丸見えになってしまっていた。フロントから奥に進んで行くとエレベーターホールがあるんだけど、そこも瓦礫の山でほとんど足場が塞がれてしまっている。かろうじて屋根があるのは、別棟の調理場とその奥にある私たちが滞在する場所に決めたランドリールームがある場所で、その上の階へ行くには非常階段を使わなければ行けなくなっていた。 「ねえ、北斗。これってなんだか、肝試しみたいね♪」 「頼むから、ふざけないでくれよ! チェリー。また、リーに説教されるだろ?」 「わかってるけど……。ずっと緊張してばかりじゃ、神経が持たないでしょ?」 「ああ。お前の言いたいこともわかるぜ。でも、マジでモンスターがいるってんだから、オレたちも少し気を引き締めて行かねえとな!」  モンスターの話題から、ずっとリーとアランが真面目な話をしていたことで、嫌な緊張感に私も苛まれてしまっていた。私はこの緊張状態からどうしても開放されたくて、わざと北斗と二人になった途端にキャッキャと笑い声をあげてふざけてみせた。すると、北斗は眉間にしわを寄せて困ったような顔をして私を見つめて苦笑していた。 ********   あまり北斗を困らせても仕方がないので、私は笑うこともふざけることもやめて、北斗と一緒に非常階段を使って二階へ上がってフロアへ出る扉を開けた。その瞬間に、前方の暗闇の中で何かが動いたので良く目を凝らして前方を見上げると、3メートルくらいある大きなモンスターが私と北斗を見下ろしていた。 「あれ何!? アランから聞いていたムカデじゃないわよ!」 「あれは……。薮蚊じゃねえのか?」  私たちは、つい目の前に立ちふさがっている奇妙な大きな生物に見とれてしまって、能力を使うことをスッカリ忘れてしまっていた。あの小さな昆虫たちが、放射能に影響されてこんな風に大きくなってしまうなんて……。いつの間にか私たちは、映画かゲームの世界に入り込んでしまっているんじゃないだろうか? 自分を見下ろす巨大な蚊を見つめながら……私はつい、そんな馬鹿なことを考えていた。  そんな私たちの目の前を上下左右に浮遊しながら、ブンブンと煩く羽音を鳴らしているモンスターに私はすぐに現実に引き戻されて、北斗に時間を止めるように叫んでいた。 「北斗! 早く時間を止めて!!」 「あああ、そうだった!」  北斗が私の声にハッとして時間を止めてくれたので、間一髪でこのモンスターに血を吸われずに済んだ。北斗は背中にいつも背負っている自分の背丈ほどある大きな剣を両手で振り上げてから、今度は力いっぱい振り下ろしてモンスターを真っ二つにしてしまった。 「何かこれって、すげえ反則みたいで嫌な気分になるぜ……」 「仕方ないでしょ? 持ってる能力は使わないと意味が無いんだから! 勝って生き延びてなんぼの世界よ!」  時間を止めて動けなくなったモンスターを倒したことに、北斗は少し男としてのプライドが自分を許せないようだったけど、私は北斗に……。「生きるためなら、時には反則も必要でしょ?」と言って北斗の頬に優しくそっとキスをした。 ********  北斗の肩に手を置いて、爪先で立ってそっと北斗の頬にキスをした私が、すぐに北斗から身体を離そうとすると、北斗が手を伸ばして私の腕をつかんで痛いくらいの力で私のことを抱き寄せて抱きしめていた。 「チェリー。お前のことは、絶対にオレが命を懸けて守ってやるから!」 「……命なんて懸けないでよね。私より先に死んだら許さないんだから!!」 「……もう少し、色気のあること言えねえのかよ! 馬鹿!」 「じゃあ……愛してるって言えば良かった?」  子供の頃、ママと一緒に見た海外ドラマの中の主人公がヒロインに言っていたようなとてもキザなセリフを、実際に耳元で北斗に囁かれて本当はすごく嬉しかったけど、私は照れくさくて色気のある言葉なんて思い浮かんでこなかった。  それでも、北斗の気持ちが嬉しくて熱い何かが胸の底から込み上げて来てしまいそうになるのを必死で堪えて、私が北斗の胸に顔を埋めて背中に腕を回してギュッと抱きしめ返して、クスクスと笑っていると。北斗は私の顔を覗き込んできて、そっと髪をかきあげると優しく私の右の頬にキスをしていた。 「……唇にしないの?」 「今はこれで十分だ!」  出会った頃から、ずっと変わらず北斗は私を大切にしてくれている。少し、じれったくなることもあるんだけど。リーも一緒に行動を共にして来たんだから仕方が無いのよね。私と北斗が愛し合っていることには、さすがにリーも気付いてるみたいだけどね。 ********  時間を止めたまま二階のフロアを確認してまわると、他にもノミのような奴と、大きなハエトリグモがいて北斗がどちらとも真っ二つにして駆除してくれていた。  モンスターがホテルの二階のフロアに現れたことを知らせるために私と北斗は、リーたちの待っているランドリールームに戻ることに決めた。 「おや? お早いお帰りですね。ケンカでもしましたか?」 「違うの。いたのよ! モンスターが!」 「本当ですか!?」 「ああ。もう、オレが駆除しちまったけどな!」  私たちに向かって冗談を口にして笑っていたリーもその横にいたアランも私たちから、モンスターが現れたことを耳にすると一瞬で怖いくらいに真面目な表情をしてこちらを見つめていた。  しかし、すぐに北斗からモンスターを倒したことを聞いて、リーもアランもホッとした表情をして、横で眠っている幼い二人に視線を向けていた。 「ユーチェンも琥太郎も眠ってしまったのね。良かった」 「ずっと、眠れていなかったようで二人とも食事が済むとすぐに眠ってしまいました。安心したのでしょう」 「この街にはあんなモンスターがあちこちにいそうね。日本にいた頃は全く遭遇しなかったのに……」 「島国の日本とは比べ物にならないくらいに、ここは大きな大陸ですからね。何がいても不思議では無いのかも知れません」  私も幼い二人の寝顔をジーッと見ていたら、急に睡魔に襲われて眠くなってしまった。そんな私を察した北斗が私を毛布で包んでくれたので、そのまま北斗の側で横になって北斗とリーとアランの話し声を聞きながら私はグッスリと朝まで眠った。
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