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僕がパーティーのリーダーとして出陣したのは一週間前だ。
峠の洞窟に居着いたオークを退治する依頼だった。
同行したのは僧侶のグラナダさんと盗賊の天秤さんに槍戦士のアキレウスさんだった。
そして、洞窟に入ったのは僕一人だけだ。
グラナダさんが僕の武器にライトの魔法を掛けてくれた。
「この明かりが継続するのは三時間だけです……」
「有り難う、グラナダさん」
天秤さんが言う。
「ここからは一人よ。アマデウスさまの期待に添えるだけの戦果を上げてらっしゃい」
「はい、天秤さん……」
「死ぬなよ、坊主」
「はい、アキレウスさん」
僕は三人に見送られて洞窟に入って行く。
事前に調べた情報だと、巣くってるオークの数は十匹程度だ。
一度に十匹とは戦えないが、個別撃破していけば、なんとか一人で倒せる数である。
僕だって強くなっている。
昔なら無理だが、今の僕なら出来るはず。
あとは必ず狭い通路で戦うことだ。
一度に二匹以上と向かい合わない。
囲まれるなんてもってのほかだ。
洞窟っていう立地を生かして戦う。
そうすれば、オークの十匹程度なら僕一人で行けるはずだ。
これは試験だ。
いずれアマデウスさんがギルドマスターになる。
この試験に合格すれば、僕も幹部の一人として迎えてもらえるんだ。
頑張らなければ……。
全ては───のためだ。
そして僕は洞窟を進んでオークたちと戦った。
作戦通り個別撃破を気を付けて、何とか七体まで倒した。
しかし──。
頭を棍棒で殴られた。
足を剣で少し切られた。
でも、傷も僅かだ。
ダメージは少ない。
まだまだ行ける。
あと三体ぐらいか……。
そろそろこの洞窟の奥地だ。
最初にもらった地図によれば、この奥が最後の部屋のはず。
僕が部屋の前に立つと明かりに気が付いたオークたちが走って来る。
オークの数は三体だ。
「うらぁぁああああ!!!」
これで最後の戦いだ!!
僕は気合いを込めて室内に飛び込んだ。
もう作戦は要らない。
力押しで勝てるはず。
そして、一太刀で一匹目のオークを袈裟斬りに屠った。
二匹目のオークとは、剣と剣が激突した。
だが、力で僕のほうが勝る。
オークの剣を弾き飛ばしてから喉を一突きにした。
ズブリと深く剣が刺さり貫通する。
「ざっ!!」
僕が刺さった剣を引っこ抜くと三匹目のオークと鍔迫り合いになった。
「ぬぬぬっ!!」
僕は力んで押した。
こいつを倒せば試験は合格だ。
これで最後だ!
踏ん張りどころだ!!
「りぃぁあああ!!!」
僕は全力でオークを跳ね退ける。
「そりゃ!!」
横一振りの剣がオークの腹を裂いた。
浅いか!?
まだオークが攻めて来る。
僕はその剣を躱すと横からオークの頭をカチ割ってやった。
決まった!
勝った!!
これで試験は合格だ!!
衝撃!!??
気が付けば、僕が横に飛んでいた。
いや、飛ばされたんだ。
強い衝撃で殴られて飛ばされたんだ。
「ぐほっ!」
僕は洞窟の壁に激突して止まった。
内蔵が煮えたぎるほどに苦しい。
「ぐはっ……」
僕の口から血が吐き出された。
苦しい……。
息が出来ない……。
なんだ?
何があったんだ?
敵?
まだ敵が居た?
十一体目のオーク?
大きいな……。
今までのオークたちより大きいぞ。
こいつがボスだ。
油断した。
立てるか?
足が震えるが、まだ立てる。
やれるか?
やるしかないだろ。
ボスオークがウォーハンマーを担いでこちらに迫って来る。
「うう……」
足に来ているな。
巧みなフットワークは使えないだろう。
ならば、一撃に掛けるか。
「ぶひぃぃいいい!!!」
ボスオークがウォーハンマーを振りかぶった。
下がるな!!
前に出ろ!!
「うりゃぁあああ!!!」
必死だった。
最後はどうなったか分からない。
自分でも覚えていない。
そのぐらいに必死だった。
でも、勝ったのは僕だった。
倒れたボスオークの上に僕が乗っていた。
ボスオークの胸には僕の剣が刺さっている。
もうボスオークは動かなかった。
勝ったんだ。
僕が一人でオークの洞窟を攻略したんだ。
「ど、どうだ……。僕だって一人で冒険ぐらいできるんだぞ……」
ああ、足が折れてる……。
ウォーハンマーで折られたのかな?
それとも壁に激突したときには折れていたのか?
まあ、いいかな。
兎に角、洞窟を出よう。
そして僕が洞窟を出るとグラナダさんがヒールを掛けてくれた。
「これでもう大丈夫よ」
足が治る。
「有り難うございます、グラナダさん」
こうして僕たちはソドムタウンに帰ってきた。
そして、冒険の成果をアマデウスさんに報告する。
アマデウスさんは冒険者ギルドの宿屋の一部屋で酒を飲んでいた。
僕と天秤さんだけで部屋へ報告しに入る。
全ては天秤さんが丁寧に報告してくれた。
報告を聞いたアマデウスさんが僕に言う。
「クラウド、それでは次の仕事だ」
「はい……」
今帰って来たばかりなのに、もう次の仕事か……。
「天秤、アキレウス、グラナダを引き連れて、アスランを殺してこい」
えっ!?
今、殺せって!?
「返事が無いな、クラウド。どうした?」
「し、質問があります、アマデウスさん」
「質問を許すぞ、クラウド」
「何故、アスランの命を狙うのですか?」
「魔王城の宝物庫から財宝を奪うためだ」
「金のために人殺しをしろと!」
少し声が大きくなっていた。
でも、アマデウスさんは淡々と答える。
「金のためではない。マジックアイテムのためだ」
「どのようなマジックアイテムですか!?」
「マジックアイテムの強奪は天秤に任せた。お前はアスランを殺せ」
「殺さずにマジックアイテムだけ奪えばいいじゃあないですか!!」
「それが出来るなら、それでも構わんぞ。ただし、確実にマジックアイテムを私の元に持ってこい。出来るか、お前に?」
「やります。否、やれます!」
「そうか、ならば行け」
これは僕の本意じゃあない。
だが、貧乏で落ちぶれた僕の家系を復活させるためには金が居るんだ。
それは、はした金じゃあ駄目なんだ。
冒険で一攫千金を当てるほどの金額だ。
その金で再び爵位を買い戻す。
死んだ父さんに代わって家を立て直す。
母さんのために、姉さんのために……。
僕がやらなければならないんだ。
だから……。
だから──。
僕は人でも殺せる。
【つづく】
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