第406話【ここ掘れワンワン】

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俺と凶介は森の中で神々のスコップを持ったまま立ち尽くしていた。 神々のスコップは凶介の手にある。 あるのだが──。 「アニキ、これ、キモイっすね……」 「だな……」 凶介が片手で持つ神々のスコップが、まるで鰻のようにクネクネと動いているのだ。 「まあ、ここまで来る際もクネクネと動いて歩行してたもんな。マジックアイテムって言うよりも、まさに生き物だぜ」 「アニキ、それにしても、こいつはここを掘れって言ってるんすかね?」 凶介がそう言うと、神々のスコップは頭をUの字に曲げて俺たちの足元を指した。 クイクイっと何度も頭で指す。 やはりここを掘れって言っているようだ。 「凶介、とりあえず掘ってみろや」 「了解しやした、アニキ!」 一時間後──。 「アニキ、何も出てきませんよ……?」 凶介が森の中を掘り続けたが、何も出てこない。 もう胸の辺りまで掘っている。 「本当に金なんて出て来るんですかね?」 「分からん……。だが、掘るしかないだろ……」 「それにしても掘った穴より積んだ土のほうが多く山になってやんすね……」 「そりゃあそうだろ。そのスコップで掘れば鉱物が倍に増えるんだから」 「アニキ、これってもしかして、このスコップで掘らないほうがいいんじゃあないっすかね?」 「そうかも知れんな……。金が出てきたら、そのスコップに交換したらいいかもな」 「アニキ、異次元宝物庫内に代わりのスコップとか在りませんか?」 「ねえよ。なんでも入ってるわけじゃあねえからな……」 すると異次元宝物庫内からプロ子の声が飛んで来る。 『在りますよ、スコップなら』 「えっ、本当か、プロ子?」 『魔王城に引っ越しが済んだら家庭菜園でもやろうと思ってたので、ちょっとした道具が揃ってますよ』 「やるな、プロ子。流石は冥土のメイドだ」 『てへへ~』 照れ笑いを浮かべながらプロ子が異次元宝物庫内から出て来る。 その両手には二本のスコップが握られていた。 「おお、ナイスだねプロ子ちゃん。スコップが二本あれば作業効率も倍っすよ!」 『てへへ~』 プロ子は笑いながら土の山にスコップ二本を刺してから異次元宝物庫内に帰って行く。 今は昼間だから、森の中とはいえ日差しがキツかったようだ。 アンデッドの定めなり。 「よし、俺も掘るぞ!」 俺はスコップの一本を凶介に手渡してから穴の中に飛び込んだ。 「ひゃっはー、掘りましょうぜ、アニキ!!」 「よーーし、目指すは金脈だ!!」 っと、ハイテンションで俺と凶介は穴を掘った。 それから瞬く間に一時間が経過した。 しかし──。 「アニキ、ぜんぜん金なんて出てきませんよ……?」 「だな……」 俺と凶介が掘っていた穴は既に俺たちの身長よりも深くなっていた。 もう土を上に投げるには深すぎるので、穴の横を崩して斜面を作り、そこから歩いて土を運ぶ作業をしていた。 よって掘れば掘るほど作業効率は低下している。 「アニキ……」 「なんだよ、凶介?」 「これは今こそスコップにアドバイスを貰う時ではないっすかね?」 「アドバイス?」 「だってこのスコップ、アドバイスが出来るんですよね?」 「ああ、出来るはずだ……」 しゃべれるのかな? それどころかコミュニケーションが本当に取れるのか自信が無い。 「じゃあ、訊いてみましょうぜ」 「分かった……」 俺と凶介は泥だらけの体を払いながら穴から出ると地面に指して立っている神々のスコップの前に座った。 「おい、神々のスコップ。本当に、ここから金が出るんだろうな?」 俺がスコップに問うた直後、スコップの柄に縦書きの文字が浮かび上がる。 「アニキ、これ、何語ですか?」 「人間語だな」 「なんて書いてあるんすか?」 「えっ、おまえ読めないの?」 「勉強は苦手で……」 「おまえ、よくそれで一族の若様やってるな」 「それは言わないでくださいよ~……」 「今度ちゃんと勉強しておけ、社長も安心するぞ」 「うっす……。でえ、なんて書いてあるんすか?」 「この下に金脈があるって書いてあるぞ」 「マジっすか、本当に金脈があるんすか?」 するとスコップの柄に新しい文字が浮かび上がる。 「この下100メートルぐらい掘ると金脈らしい……」 イラっ!! 俺と凶介が立ち上がってから、手にしていたスコップをガンっと地面に叩き付けた。 冷静な表情で凶介が言う。 「アニキ、このスコップ叩き折りましょうか?」 俺も冷静に返した。 「明暗だな。俺も同じことを考えていたところだ」 しかし、神々のスコップがクネクネと走り出した。 「逃げだしたぞっ!!」 「追え、凶介!!」 「へい、アニキ!!」 俺と凶介の二人は逃げるスコップを全速力で追った。 「待てや、ゴラァ!!!」 「いてまうぞ、ワレっ!!、」 スコップと俺たち二人が森の中を全速力で駆け回る。 速いな、あのスコップ!! スコップとは思えない速さで逃げやがるぞ!! 「まてゴラァ糞スコップ!!」 「捕まえたら尻の穴から手を突っ込んで奥歯をガタガタいわせてやるぞ! ねえアニキ!!」 ねえアニキじゃあねえよ!! スコップに尻の穴も奥歯も無いだろうが!! 俺たち二人は逃げるスコップを追い続けた。 そして、50メートルぐらい森の中を走っただろうか。 突然に現れた岩場の陰にスコップが逃げ込んだ。 「ヤバイ、見失うっす!!」 「とうっ!!」 俺は自慢のジャンプ力を生かして岩場に在る巨大岩のてっぺんに飛び乗った。 「どこ行った!?」 下を見回せば神々のスコップが岩場に口を開けた洞穴に逃げ込んで行くところが見えた。 「あそこか!!」 俺は洞窟の入り口前に飛び降りる。 洞窟の入り口は人が一人ぐらい入って行けそうな幅だった。 後ろから凶介が追い付いて来る。 「アニキ、あの野郎は何処に!?」 「この中だ……」 「洞窟……?」 「おまえ、この洞窟を知ってるか?」 「いや、知りやせん……」 「ここはかつての魔王が封印されていた祠だ!」 「マジっすか!?」 「嘘だ。お前が知らないのに俺がこの土地のことを知ってるわけないだろ」 「そっすよね……」 そして俺が洞窟の中を睨んでいると凶介が訊いて来た。 「どうしやす、アニキ。中に入って追いますか?」 俺は怪しく微笑みながら答えた。 「丁度良い冒険だ。俺一人で入るぞ!」 「俺は留守番すか……?」 「じゃあお前が一人で入るか?」 「俺ら森の妖精っすよ。地中だとキャリオンクローラー以下ですがな」 「キャリオンクローラーって巨大芋虫だよな?」 「へい、そうですが」 「あれって蝶になるん?」 「なりやせん。一生芋虫です」 「可哀想なヤツラだな……」 「でえ、一人で行くんすか?」 「ああ、行って来る」 俺は虫除けのランタンにキャッチファイアーで火を灯すと割れ目に入って行った。 「さあ、冒険の始まりだぜ!!」 「よっ、アニキ、いかしてる!!」 そして、俺が洞窟に入って一分後──。 「神々のスコップ、捕まえたわ……」 「超はや!!」 俺は瞬時に帰還した。 冒険は終了である。 俺の手には、いまだに逃げようと踠く神々のスコップが在ったとさ──。 【つづく】
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