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“…とりあえずまあ、よろしくね?”
コツンとおでこをくっつけて、そう囁いて。
放心状態の私をよそに…スマホを取りだし、サクサク連絡先を交換して、宮本さんは去って行った。
わ、私…なった…ん、だよね……宮本さんの…
か、かの…
「麻衣ちゃん!」
「え?わっ!」
突然、目の前で炭酸が爆発して、顔にかかった。
「すげーじゃねーか!ラムネ開けさせたら日本一だな!」
目の前で商店街の会長である玄さんが豪快に笑う。
…そうだ。
今はこの西町商店街のお祭りの途中。
私は、ラムネを開ける係で……ってなぜ、周りに人だかり。
いつの間にやら、周りには子供やそのお母さん、お父さんらしき人達、そして商店街の重鎮さん達が興味津々の表情で集まっている。
どうしよう…私、何かやらかした?
宮本さんとの出来事が衝撃過ぎて、それを忘れようって一生懸命ラムネを開けていたつもりだったんだけど…
「やるねー!麻衣ちゃん!『ラムネ連続10本開け』!」
「すみません、うちの社員が出過ぎたマネを」
「いや、一緒にこうやって盛り上げてくれっと活気づくよ!」
「そう言って貰えると嬉しいですが…」
サクラさんが玄さんに丁寧に頭を下げてから私に向き直った。
「麻衣、少し休みな。遅れて到着したけどその後ずっと動きっぱなしじゃない」
…働いていた方が宮本さんの事考えずに済むんだけどな。
だって私があの宮本さんの彼女になって…
『彼女だし、構わないのか』
………… キス。
「ラムネ、如何っすか!!」
「こら、秋川!
あなたが目立ってどうするの。主役は商店街の人達でしょ?」
……その通りです。
ああ、もう。
私的理由を仕事に持ち込むなんて……。
がっくり肩を落とし裏手の集会場へと足を運んだ。
「お疲れ様。二人がよくやってくれて、今までで一番盛り上がってるわ」
そんな私に優しく笑いかき氷を出してくれる玄さんの奥さん
「本当にありがとうね」
…やっぱり好きだな、この仕事。
心底思う、クライアントが笑顔になってくれると。
食べた苺のかき氷は口の中を冷やしてくれて気持ちがスッと落ち着いてくる。
「冬のかき氷も美味しいですね」
「そりゃね。うちの氷はとびきりよ」
今度はホカホカのたこ焼きを出してくれる。
「商店街には沢山美味しいものがあるの。沢山広めてね」
「はい!」
…良かった、成功して。
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「麻衣、落ち着いた?」
奥さんと入れ替わりでサクラさんが集会場へと入ってきた。
サクラさんのスラリとした手が、スッと伸びてきておでこを触る。
「…ずっと顔が赤いから熱でもって思ったけど、大丈夫そうだね」
「すみません、ご迷惑を…」
「や?良いんだけどね。結果的にあなたの働きで倍盛り上がったから。でも…何かあった?」
何か…はあったけども。
川での宮本さんとの出来事を思い出してまた頬が上気する。
「何となくね…無理して頑張っている様に見えたからさ。」
…さすがはサクラさん。
ちゃんと見てるな、部下の事。
…言った方が良いかな、心配かけちゃってるし。
一部始終って事じゃなく、宮本さんと会ったって事位は。
「あの…サクラさん。」
「ん?」
「実は…さっき、川横のベンチで休んでいる時に、宮本さんに会いまして。」
「ああ、そうなんだ。宮本さん、何?今日仕事?」
…スーツでは無かったから休日、だったんだろうな。
「多分…お休みだったのではないかと。」
「へえ…休みなのに出かけるなんて珍しいね。女だな。」
…するどい。
『サクラの部下だから』
そういえば宮本さん、そう言ってたな…
「あの…サクラさんと宮本さんは…親しいんですか?」
「ああ、私が新人の頃お世話になった先輩なの。あの人の仕事ぶりは本当に勉強になるよ。細かいことは教えてくれないんだけどね。でも、何だかんだ私は良くして貰ってた。」
「そう…ですか…」
「宮本さんがどうかした?」
「え?!えっと…」
小首を傾げるサクラさんは少し心配そう。
……隠していても仕方ないか。
「…実は、会った勢いで告白しまして。その…お付き合いをすることに。」
微かではあるけれど、サクラさんの綺麗な切れ長の目が確かに見開いた。
「……そう、なんだ。」
その奥の瞳がどことなく、優しく揺れる。けれど、ルージュの口紅で染まる形の良い唇は三日月を描いた。
「良かったじゃん。大事にして貰いなよ?」
少しだけ寂しさが余韻にある気がするのは…気のせいかな。
けれど、それがどうしてなのかも分からないし、何となく聞くのも恐く思えて
「…はい。」
ただ、そう答えただけ。
どうしてか、『一週間の期限付き』だと言う事は、言葉として出て来なかった。
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