Second day

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. 宮本さんとショッピングしてお夕飯。 定時に上がることを目指して頑張って仕事をして。 ぴったりにあがるのは無理だったけれど、何とか、定時から遅れる事30分ほどでエントランスへと降り立った。 宮本さんはさすがにまだ来てない…よね。 辺りをキョロキョロしながら受付の前を通り過ぎ、社員証をカードリーダーに通してビルのドアの横に立つ。 何か…そわそわする。 ロッカーで一応髪の毛とかして来たけど、大丈夫かな。 手ぐしで少し髪を整えてたら今度はスカートに皺がないか気になり始める。 前は大丈夫だけど、皺が出来るのは後ろだから… 振り返ってコートの端から出ているスカートの裾を一生懸命確認してみても大して見えない。 鏡…確認してくれば良かった… 「……何?後ろ気になるの?」 ひいっ!宮本さん! ヌッといきなり登場しないでください! 「だ、だ、大丈夫です…ちょっとスカートの裾に皺がないか気になったので」 宮本さんがふーんと真顔で私のスカートの裾を見る。 「見た感じ大丈夫そうだけど」 「そうですか、ありがとうございます…」 …って、宮本さんにチェックさせてどうする。これじゃあ何の為のチェックかわからないじゃない。 項垂れる私を「ん?」と小首を傾げる宮本さんの仕草が、幼顔のせいか、やっぱり可愛く見える。 「あー…宮本さんいいな。今日も可愛いよね。かっこいいしさ…」 「本当!素敵だよね。」 受付嬢の方々が、目をハートにして見てますよ、宮本さん。 なんて考えていたら、ギュッと突然右手を握られた。 「…とりあえず、移動するよ。」 こ、ここで手を握る?! さっきの受付嬢の方々の声、届いてましたよね?宮本さんにも… 「えー…今度の彼女冴えない。」 「いいじゃん。あれならいつ告白しても付き合って貰えるって!」 …ああ、なるほど。 私じゃ嫉妬の対象にもならないから、別にどこで繋ごうが何しようが平気って事か……。 ハハッと自嘲気味に密かに笑いながら、宮本さんに引っ張られるままビルの外に出た。 ドアの外すぐは気圧の関係か、ビル風がびゅうっと吹き付ける。 「寒っ」っと背中を丸めた宮本さんが、私の手を握ったまま、コートのポケットに突っ込んだ。 「座布団てどこ行きゃ売ってんだろ。ホームセンターとか?」 「雑貨屋さんとかにも今はあるかもしれませんけど…」 「ふーん…全然わかんないかも、俺。何か好きなトコある?」 好きな所…か…。 私の趣味でいいのかな…と思いつつ、まあ、どうせ私のお尻に敷く物だし、私が買うんだからと、雑貨屋さんへと宮本さんをご案内。 「…『ゆるネコびより』。へー…」 宮本さんが私の横に立って、興味なさげにヒョイッと一つぬいぐるみを手に取った。 「あ、それ…『まる』だ。」 「名前ついてるんだ。」 「はい。最初の飼い主が拾われてすぐに他界。その後、近所の人から愛されつつも、飼い主さんが見つからずにいたトラ猫です。でも、最終的にはちゃんと飼い主さんが見つかって、余生をのんびり過ごしているんです。」 「そんな具体的なエピソードがあんの?こんなのんびりした顔して、苦労してんじゃん。」 「あっ、“たぬきのたーちゃん”だ。この子は、自分がたぬきだと思って、虚勢を張ってノラになっていたのに、実はネコだってわかって戸惑ってる感じの猫です。」 「何かどれも設定が何となく一筋縄じゃ行かない感じで、シュールだね…。」 「”ゆるネコびより”はそこが好きなんですよね…見た目が可愛いからそのギャップが。」 「そうなんだ…んじゃ、こいつは?」 「”しろねこ”はただのしろねこです。」 「こいつだけエピソード無し?!それ、可哀想過ぎない?逆に。」 フハッと少し楽しそうに笑うと“しろねこ”をその丸っこい指でヨシヨシと撫でる宮本さん。 ……いいな。”しろねこ” どことなく“しろねこ”にヤキモチをやきつつ、”ミケねこ”のクッションを手にとった。 両腕で抱えるくらいの大きさだけど、軽くて、毛布よりも毛足の短い柔らかい滑らかな生地でできたそれは、抱き心地抜群。丸い目とぼた餅みたいな鼻と口。刺繍されているだけのひげ。愛嬌のある顔に、やっぱり可愛いなと思った。 ただな…値段が結構する。 でも一週間経ったらうちにお留守番になるわけだからいっかな…奮発しても。 今、家に”ゆるねこ日和。”のもの、たくさん飾っているわけじゃないし。一個位大きいのが居ても平気だし。 「うーん…」 迷ってたら、宮本さんが隣で首を少し傾げた。 「…ねえ、思ったんだけど、その上に座れるの?」 「あ…確かに…この上に座るのは忍びないですね。どちらかと言うと、こうやって抱えたい感じかも。」 ギュッと抱きしめて見せたら 「じゃあ、却下。」 するりとそれを抜き取られた。 「そこのポジションは俺のなんで」 瞬間的に頬が熱くなる。 棚にクッションを返した宮本さんが、振り向きざまに口角をキュッとあげて私の左頬を優しくつまんだ。 「目的は麻衣が座る為の座布団です。そこを忘れない様に。」 「は、はひ…」 つままれたほっぺたが…幸せだって悲鳴をあげてる。 けれど、「ほら。とっとと探すよ。」と宮本さんはさっさと離れて違う陳列棚に歩いて行く。 …もう少し、ほっぺたつままれていたかった…な。 後ろ髪ひかれて、そっと触れた頬はまだ熱を持っていた。 .
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