600人が本棚に入れています
本棚に追加
.
「はあ……」
宮本さんとカフェを出て、駅の改札で別れて、アパートに帰ってきた。
別に、宮本さんが「じゃあねバイバイ」って言ったわけじゃない。
私がさくさく会計を済ませ、自ら「じゃあ、これで!」と言った感じ。
宮本さんは、キョトンとした顔で一言。
「……うん、じゃあ。」
そうあっさり言った。
別に…『もう少し』とか引き留められる事を期待していたわけじゃないけれど。アパートに帰って来た今、何だか寂しい気持ちと恥ずかしい気持ちで複雑になっている。
……望めばもう少し一緒に居られたのかな。
でもな…『食いしん坊』のレッテルを貼られた身としては、あれ以上一緒に居るのはな…まして、自分から『もう少し』とはとても恥ずかしくて言えない。
宮本さんの方から『もう少しいい?』って言ってくれたら、気持ちも持ち直せたけど……
「………。」
……いやいや。
何を麻痺しているんだ、私は。
告白したのは私でしょ。
何で宮本さんにして貰う事を望んでいるのよ。頑張らなきゃいけないのは私なんだから。
袋から携帯座布団を取り出し、それをマジマジと見つめた。
…とにかく、一週間て猶予は貰っているんだから。
食いしん坊と思われたからってそれを引きずっていたら、時間がもったいない。
座布団を置いて代わりにスマホを手に取った。
『座布団をありがとうございました。』
「……」
そこで指が止まる。
たった今、奮い立たせた気持ちは、またマイナス方向へ。
本当は明日の帰りの約束とか具体的にしたいけれど…これで断られたら…な。
結局土壇場で弱気な私。
続けて『お休みなさい。また明日』と打つだけにとどめた。
宮本さんとのトーク画面上に乗ったメッセージはすぐ既読になる。
『おつかれ』
…返信、すぐ来た。
『明日の昼は?休み何時?』
ドキンと鼓動が跳ねる。
『今日と同じです』
『じゃあ、同じ様に13時10分書庫整理室ね』
これって……
『座布団忘れない様に』
明日もお昼休みに膝枕で寝ようと思ってくれてるって事、だよね?
最後に『おやすみ』というスタンプが送られて来て、勝手に頬が緩む。
「くーっ!」
そのまま、スマホをおでこに当てて転がった。
良かった…嬉しい…な。
よし、食いしん坊はもう気にしない!
明日の帰りもデートして貰える様に昼に打診してみよう。
貴重な一週間をちゃんと過ごさなきゃ。
.
最初のコメントを投稿しよう!