5人が本棚に入れています
本棚に追加
謝りたい
公園のベンチに暗い顔で座っている女がいた。
「はあ、どうして私こうなんだろ……」
ため息を吐く彼女に、別の女が近づいていく。
「大丈夫?」
「あ、先輩……」
ベンチに座る女の顔に、少しだけ安堵のような表情が浮かんだ。
「また……失敗しちゃいました……」
「気にしないの」
彼女がこうして落ち込んでいる姿を、先輩は何度も見ていた。
さらに面倒な事に、彼女は気真面目過ぎるところがあった。だからいつも抱え込んでしまうのだ。
「謝りたいんですけど、彼が私の話を聞いてくれなくて」
「いつも言っているでしょう。そんな相手とは、さっさとお別れするのよ」
「でも、彼のことが憎いわけではないし、私が悪いのは分かってますから……」
謝りたいんです。そう言って泣きそうな顔をする女に、先輩は諭すように言った。
「良いのよ、気にしなくて。あなたはただ彼の前から消えればいいの。二人にとってもそれが一番の幸せよ。今までもそうだったでしょう?」
「そうですね……。みんな、私の話なんて聞いてくれなかった」
「謝る必要なんて無いのよ」
先輩は彼女の顔を覗き込むようにして優しく言った。
「次こそ、あなたの運命の人に会えるわ。だから先へ進まないと」
「運命……」
「この辺りにいるのは間違いないんでしょ?」
「はい」
「なら、探さなきゃ」
「はいっ!!」
女は頷き、勢いよくベンチから立ち上がった。その顔には笑顔が浮かんでいた。
先輩はそれを見て満足そうに微笑み、そのまま姿を消した。
「頑張らなくちゃ」
一人になった彼女は、空に浮かんだ月を見上げて決意を固めるのだった。
最初のコメントを投稿しよう!