謝りたい

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 ふと気が付くと、ベンチの上には猫がいて彼女をじっと見つめていた。彼女はその猫に向かって話しかけた。 「結局また言えなかったのよ。なんでだと思う? なんでみんな私の話を聞いてくれないのかな? 一言、謝りたいだけなのに」  ビクッと身を震わせた猫は、踵を返して一目散に逃げていく。 「ちょ、君も私の話を聞いてくれないの? なんで? 何がダメなの? 全身血みどろだから?」  猫の走り去った方を見つめて、女は一つため息を吐く。 「仕方ないじゃん、轢き逃げされたんだから……」  その恨みで、彼女の魂は未だ成仏できないでいる。  早く自分の運命を狂わせた相手、犯人に憑りついてやりたいのだ。だが、なかなかそうはいかない。 「ヒビが入ってても良いから、メガネがあればなぁ」  彼女は酷い近眼だったが、轢かれた衝撃で彼女のメガネはどこかへ行ってしまったのだ。  せっかく幽霊になったのに、視界はぼやぼや。おかげで憑りつく相手をしょっちゅう間違えてしまう。  その度に謝ろうとするのだが、誰も彼女の話なんか聞いてくれない。 「何なんだよ!! お前なんか知らねぇよ!! どっか行ってくれよぉ!!」  喚き散らされ、何度すごすごと退散した事か。  その度に彼女の未練は加算され、成仏は遠のいていくばかり。 「あー、もう、何もかもがうらめしいー!!」  悲しい幽霊の叫びが、真夜中の公園に響くのだった。
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