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その時、先程の看護師が戻って来た。
「田所先生! カテーテル室、空いてます。ACS(心腔室除細動)の準備をお願いして来ました!」
「分かった! このままカテーテル室移動するわよ!」
朱莉の声に合わせ、処置室の全員が一斉に動く、そして僕は五分後、カテーテル室へ運ばれていた。
そして朱莉は僕の左太腿の付け根を躊躇することなくメスで切開した。
「BeeAT(ビート)を下さい!」
看護師から渡された特殊なカテーテルを朱莉は僕の太腿の血管内に挿入した。レントゲンに映ったそのカテーテルは太腿から腹部を通り、あっという間に心臓に達した。
「裕翔君、この除細動は心臓内部で電気ショックを入れるの。体表面除細動よりも確実に心筋を動かせる筈・・。だから・・戻って来て・・。今度は私が助ける番よ・・」
彼女は僕を見ながら呟いている。
「それじゃ、ショックを入れるわ!」
朱莉が手元のショックボタンを押した。
その瞬間、浮いていた僕の『魂』は再び淡い『光』に包まれ、急激に自分の身体に引っ張られるのを感じた。
「心拍、回復しました! 呼吸、戻ります!」
その声と共に、僕の目の前が暗転した。
僕は真っ暗な世界を歩いていた。どちらに歩けば出口があるのか皆目見当が付かない。でもその時、遥か先に小さな『光』が輝いた。
近づいて見ると、その『光』は黒いドアの隙間から漏れていた。僕は勢い良くそのドアを開けた。
同時に僕は目を開いた。眩しい手術用ライトの『光』が目に飛び込んで来る。そして朱莉が僕を見つめている・・。
「裕翔君、分かる?」
そう聞く朱莉に僕は頷いていた。
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