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「朱莉さん、歩ける?」
朱莉が再び小さく首を振った。
僕は決意していた。
「朱莉さん、僕の背中に捕まって」
僕は彼女の前に背中を向けて彼女を背負った。そしてガイドに連れられて入って来た洞窟の通路を戻り始めた。
広場から出口に向かう通路は地震でも崩れていなかった。しかし非常に狭く、朱莉を背負ったまま通るのは一苦労だった。でも幸いなことに十五分程で僕達はビックルームに戻ることが出来た。
僕はヘルメットのライトを頼りにビックルームを進み、更に二十分程でツヅラ折りの登り口に来た。
見上げると遥か上方に地上の『光』が見える。
背中の朱莉は力が抜けてグッタリしている。足からの出血は続いている様だ。
「急がないと・・。そうだ」
僕は右手で朱莉を支えながら左手で携帯電話を取り出した。携帯は幸いのことに圏内だ。僕は『911』に電話を掛けた。
「911、エディー郡保安官事務所です」
「地震でカールスバッド洞窟内の落盤に巻き込まれました。友達が足に怪我して出血しています」
「友達の容態は安定している?」
「分かりません。出血は続いていて意識が無い様です」
「分かった。ヘリを飛ばすわ。ビジターセンターの駐車場まで来れるかしら?」
「はい、分かりました。向かいます」
僕は電話を切ると意を決して地上の『光』を目指してツヅラ折りの坂道を登り始めた。
そして洞窟の出口を抜けて太陽の『光』の下に出たのはそれから十五分後だった。
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