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朱莉との別れ
二人分の体重を支えて坂を登り続けた僕の足は既にパンパンだったが、そのまま駐車場まで歩き続け、そこで朱莉を背中から降ろした。
しかし彼女は全く反応を示ない。僕は彼女を駐車場の地面に仰向けに寝かせた。彼女の胸の動きを見るが全く上下していない。頸動脈を触っても脈を感じない。
僕はハイスクールで受講した心肺蘇生の講習を思い出していた。
「心肺停止している・・」
僕は決心すると、少し躊躇しながらも彼女の左胸を両手で押して心臓マッサージを始めた。一分間に百回の頻度で三十回マッサージを行い、彼女の顎を上に向け彼女の唇に自分の唇を重ね人工呼吸を行った。
再び心臓マッサージに戻る。それを十回繰り返した所で、頭上からバラバラと言うヘリコプターの音が聞こえ、直ぐに激しい風が僕達を襲った。しかし僕は朱莉の心臓マッサージと人工呼吸を続けていた。これが本当に意味がある行動だったか分からなかったが、彼女を助ける為に僕が出来る唯一のことだった。
数分で足音が聞こえ二人の緊急救命士が駆け寄って来た。二人は僕から心臓マッサージを引き継ぎ、彼女をストレッチャーに載せた。
「君は彼女の家族か?」
「いえ違います。同じツアーの参加者です」
「分かった。それでは彼女をヘリでアルバカーキの緊急病院に搬送する」
僕が頷くと足早に彼らは朱莉のストレッチャーをヘリに搭載し自分達もヘリに乗り込んだ。
僕がヘリから離れるとヘリは駐車場から離陸し、機首を北西に向け高度を上げて飛んで行った。
その後、僕は家族と会うことが出来て、お互いの無事を喜びあった。しかし、僕はそのまま家族と一緒に次の目的地ホワイトサンズ国定公園に向かった為、朱莉が回復できたのか確認出来ないまま彼女と別れることになってしまった。
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