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玄関をそっと開けると、居間で男がふてぶてしく寝転がってテレビを見ていた。
足音を忍ばせて2階に上がる。
――家を出ようかな。遠くへ。それとも、おばあちゃんのところへ……。
冷え切った勉強部屋に入ると、ベッドの下から、ギラリと光る眼がこちらを見ていた。
ここ数日、ご飯時以外は寄っても来なかったミミだ。
「ミミ、おいで」
けれどミミは横たわったまま苦しそうに呻くだけで、動こうとしない。
心配になり、近づいて覗き込むと、ミミは大きく肩で息をし、後ろ足を痙攣させた。生臭い匂いが漂う。
「ミミ、どうしたの」
慌てて抱き上げようとした時だ。ミミの尻辺りが緩く光りはじめた。
その光は徐々に強くなり、やがて大人の拳大の塊となって、するりと床の上に流れ出た。
ミミは子を産んだのだった。ミミに粘膜を舐めとられたそれは、形状や動きこそ子猫のようだったが、明らかに光の塊だった。
「ライラ……」
呼ばずにいられなかった。
そして、そう呼ばれた子猫も、まるでそれを待っていたかのように優衣に歩み寄り、震えるその手に頬を摺り寄せたのだ。
温かかった。ふわりとした感触が確かにある。
目の前にある現実に優衣は震えた。どんな言葉でも形容できない。まさに気の遠くなるほどの歓喜だ。
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