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ミミがライラの子を産んだ。いや、ライラがミミの腹を借りて生まれ変わった。そう思うのが一番しっくり来た。もうあの鉱石も必要ない。ミミの遺伝子を借りた形でライラはこの世界の住人になったのだ。
もしかすると初めからそのためにライラはミミを呼び寄せ、抱きこんだのかもしれない。
なんというしたたかな生物。優衣は笑いを堪えきれなかった。
ミミの乳を飲むわけでもなく、子猫の形をしたそれはしっかりと立ち、そして軽やかに優衣の肩に乗って来た。陽だまりのように光る毛並みに頬ずりをする。
「おかえり」
止まらぬ涙をライラが舐める。くすぐったくて気持ちいい。
細胞の一つ一つが目覚めていくような感覚があった。胸のあたりが満たされ、わけもなく力がみなぎって来る。
もう自分は一人じゃない。
不意に、ギシギシと階段の軋む音が聞こえた。
「あれ~。帰ってたんだ優衣ちゃん。挨拶しないなんて悪い子だ。お尻ぺんぺんの刑にしちゃおうかな~」
赤ら顔の男はいきなり部屋に入って来た。酒臭い。他人の家で、昼間から酒を飲んでいたのだ、この男は。
ゴツゴツした汚い手が伸びてくる。するりとライラが優衣の胸元に滑り込んだ。それが合図だった。瞬時に脳内のスイッチが入る。
――失せろ。
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