64人が本棚に入れています
本棚に追加
眼球が飛び出すほど目を見開き、男は一瞬動きを止めた。
開けた口の中で赤黒い舌が痙攣する。
やがてフラフラと後ずさり、優衣の部屋を出た辺りで獣のような叫び声をあげたかと思うと、後ろ向きのまま、男は階段を落ちて行った。
派手な音がしたが、その後はとても静かなものだった。
優衣は階段の上からゆっくりと下を覗き込む。
男は奇妙な形に首を折り曲げ、仰向けに伸びていた。目は見開かれていたが、何も見てはいないようだった。
ライラが胸元から飛び出し、優衣に頬ずりする。とても幸福な気持ちだった。
部屋に戻り、ゆっくり制服を脱ぎ、着替える。
明日の学校は、少しだけ楽しみだった。
机の上では、祖母の遺品の天使が、物言わずこちらを見ていた。
ヒンヤリとしたそれを手に取って、引き出しの中にそっと落とし込む。
そして優衣は目を閉じた。
――約束守れなくて、ごめんね。
最初のコメントを投稿しよう!