一 謎マフの謎

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一 謎マフの謎

「アイスマフラーチャレンジみたいの流行ってる?」  佐伯(さえき)陽太(ようた)は出社するなり、ロッカーの前で出会った同僚の真中(まなか)(てつ)に尋ねた。 「なんだそれ」 「ほら、アイスなんとかチャレンジみたいの、何年か前に流行ったじゃん」 「ああ……」  真中は一時期SNSを賑わせていたリレーイベントを思い出した。 「アイスマフラーは聞いたことねーな。なんで?」 「昨日、マフラー貰ったんだよね。冷ったいやつ」 「は?」  佐伯は昨夜、自宅の最寄り駅の前で、タクシーに乗ろうか乗るまいか、悩んでいた。  朝から降り始めた雨が、午後には雪になった。夜の十時半、郊外の街に降り立つと、目の前に広がるのは踏み荒らされた泥色の雪の残骸。  南の出身で雪慣れしていない自分が、このみぞれ状態の地面を七百メートルも歩いて帰れば、確実に滑って転ぶだろう。そう考え、タクシー乗り場に目をやると、これがなかなか長蛇の列。  次々と白い点を生み出す濃藍の空へと視線を移し、あの列に加わるべきか否かと悩んでいたら、ふと、凍えるようなギターの音色が耳に届いた。  こんな日は弦を押さえる指も痛そうだ。そう思いながら、佐伯はギターの主を探そうと一歩踏み出した。  その時、突然佐伯の目の前に一人の女子が立ちはだかった。
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