三 謎マフ女子の証言

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 彼女は佐伯の顔を見ると驚いたように目を見開き、何か言おうとしたのか口を開きかけた。 「佐伯くん!」  さゆこが追いついてきた。 「あ、さゆこ」  佐伯が目を逸らした、一瞬のことだった。  謎マフ女子は、――走り出した! 「あっ、逃げた!」  さゆこが指差す。 「えっ!?」  顔を戻すと、彼女は人気のない路地の方へと走り去ろうとしている。 「哲に連絡して一緒に来て!」  さゆこにそう言い残し、佐伯はマフラー入りの紙袋だけを片手に彼女を追いかけた。  普段運動していない佐伯に、全力疾走は思いのほかキツかった。あっという間にスタミナが尽き、膝に手をついて肩で息をしながら敗北をかみしめる。 「あの子、すげー足速いな……」  完全に巻かれてしまった。  女の子一人でこんな暗い裏路地に入ったら危ないと心配になったが、あの分ならたいていのオッサンは追いつかないだろう。  俺が追いつけなかったのではない、たいていのオッサンは追いつけないのだ。佐伯はそう頭の中で繰り返した。  そんな佐伯に、背後から近づく者がいた。 「あのう……」  呼吸を整えながら振り返ると、 「カノジョさん、おいて来ちゃって……大丈夫ですか……?」  謎マフ女子が、おずおずと話しかけてきたのだった。
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