デモクラシー・ラプソディー

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デモクラシー・ラプソディー

 そして晴は、病棟に一歩足をふみいれたと同時に、後悔をした。 本当に私なんかに看護婦が勤まるんだろうか。その一瞬体は固まってしまった。  春だというのに広い待合室は暗く。クレゾールの消毒液が鼻をくすぐった。早くから診察を待つ患者さんや、赤ちゃんを抱いたお母さんが、ポンポンと背中を叩いてあやし着けていた。 「どうかなさいましたか」  振り返ると、年輩の看護婦がいた。 「はっ」  はい。としっかりいえない。 「大丈夫?」 「いえ、わ、私、す…鈴木晴と申します。きょうから、ここでお勤めさせていただきます」 「ああ、鈴木晴さん。新しく来たかたね。他の人たちはもう集まって講堂に集まっているますよ」  一番早く来たつもりなのに、これでは遅刻ではないか。  看護婦さんが去ってから、晴はペロリと舌を出した「私らしいや」と思い、緊張が和らいだ。  新村病院にこの春奉職したのは、晴を入れて五人である。同じ看護学校で学んできた仲間である。 院内の講堂で友達は、すでに背筋を伸ばしてきちんと座っている。 「おはよう」  元気よく挨拶をしたが、四人はそれには答えず、晴の大声にうつむいて笑いをこらえているようだった。 晴は一番端の椅子にひっそりと腰掛けた。 「ウオッホン」と肥満した大きな体の院長が入ってきて、さきほどの看護婦がかしこまって後ろに立った。 「現代の医学は、大いに発展して西洋に追いつこうとしている。たった五十年の間だ。野口博士や北里博士など彼の地で活躍なされている。かくゆう我が輩もドイツに遊学し、広く貢献できたものと自負している……  院長の演説はたった五人の看護学校出の娘たちにとって、それも卒業したての、前で難しいことばをならべくどくどと長かった。実は自分は適塾の最後の門下生であったこと、日清戦争では軍医として従軍したことなど、嗄れた声は聞き取りにくく、まだが朝だというのに眠くなってしまう。  窓の外は桜の花びらが舞っていた、晴は欠伸をかみ殺した。 院長の演説は最後まで訓示のことばも、ましてや祝辞もなく、娘たちを最後まで意識しているとは思えなかった。 そんな、のどかなのは初日だけだった、外科の医師の手伝いをすることになったのだが、 朝から梁から落ちた落ちた鳶がかつぎこまれたり、喉に食べ物を詰まらせた老人の背を言われるままに叩いたり、「○○をもてきて」と言われうろたえたり「速くして」と先輩の看護婦に叱責されたりして、右往左往しっぱなしだった。いったい何を指示されているのか、なにをしたらいいのか理解するのが精一杯だった。晴はなにか指示されると「はい」と大声で返事をする。患者さんのも冗談を言っては大声で笑う。 この間などはおじいさんの若い頃の恋愛話に「美人だったでしょう」「どきどきだったんだ」「それから」とつづけてしまった。 「鈴木さん、おしゃべりしてないで、やるべき仕事をしてください」と叱られる。 「ここは病院なんですよ、あなたには看護婦としての自覚がないのではありませんんか」と何回も注意を受けるのだが、もとからの性分なのかそれを直すことができない。一瞬反省をしてみるのだが、五分とはもたないのだ。  晴は、病院から帰るとき石垣の上を散歩するのが楽しみになっていた。あんなにも咲きほこっていた桜も淡い緑の葉がとげのようにつんつんと出ている。そのような小さな発見がなによりもうれしいのだ。  歩いて行くと、おおきな欠伸をしている青年がいた。白衣を着ている。病院の先生だろう。 初めて会う人だ。無精髭で髪の毛もぼさぼさだ。「先生」と声をかけると「おう」ととぼけたように返事をした 「あなたは、今日から若先生のお手伝いをしてください」と婦長さんから命じられた。婦長さんの口元が少し笑っているようにも思えた。  若先生は峰吉といい、東京帝国大学の医科学部を出たばかりの秀才だともっぱらの評判だった。 「どんな人だろう」と晴は期待に胸がたかなった。  峰吉先生の「研究所」は病棟の裏手の小高い山小の小屋にあった。もともとは病院の物置として使われていたのだが、いつのまにか先生が占領してしまったようだ。 鉄の重いドアを開けると透明のガラスの管が縦横に曲がりくねり林の中に迷い込んだようだ。どこかでチューチューと奇妙な音がして、管の中を赤や黄色の液体が勢いよく走り抜けている。 「こんにちは今日から先生にお世話になりましたる鈴木です」と元気にあいさつをしたが返事がない。しかしたしかに先生はいるようだ。気配がする。こんどはもう少し大きな声でよんでみたがやはりへんじはなかっった。  床にはたくさんの木箱がならべられ、その中にはフラスコ、新聞紙からはみでたビーカーやシャーレが詰められている。そして麻紐でくくられた書類、洋書が積み重ねられて、奥にいく余地がない。  晴は体を縮めて、奥に入って行った。  やはり一番奥の窓際に白衣の先生がいた。石垣で出会ったあの人だ。 「峰吉先生!」と呼びかけるとようやく彼はふりかえった。 「ああ、君か院長から聞いているよ」と夢から覚めた様に答えた。 「その辺に青い表紙の冊子があるはずだから、探して持ってきてくれないか。そう棚の向こう」  晴はいわれるままに、棚の向こう側にでた。そこはおもいかけなくこざっぱりとかたづいている。そしていくつもの籠が積み重ねられている。ここではじめて、チューチューと奇妙な音することに気づいた。籠の中をのぞいてみると、白いネズミが三四匹ずついて晴に気づいたのか。いっせいに赤い眼で晴を観た。  青い冊子は机の上にあって開かれている。横文字で書かれている文書に、びっしりと赤い書き込みがあった。 「机の上にある綴りですか」 「ああそうだたのむ」  綴りの一番表紙に、「結核についての研究」と太い朱書きで書かれている。  晴は苦しんで死んでいった美津のことを思いだした。 「この先生は結核のことを研究なさってるんだ」  女学校時代友人たちみんなで病床に寝ている美津の家に集まって、たくさんたくさんおしゃべりをしていた。美津の家は大きな呉服屋で、離れの美津の部屋も瀟洒な落ち着いた違い棚もあり、立派な南画がある。部屋の襖いっぱいに枝が広がり広がり小鳥が舞っていた。そこでは晴たちはお見舞いなんてとてもいえないような姦しさでしゃべりつづけた。  美津の血色もよく、みんなの馬鹿話につきあってくれていたが、笑いすぎるとよく咳き込んだ。晴は美津の背中をさすってやった。花柄の手ぬぐいに美津の吐いた血を見たとき、美津の運命を痛切に知ってしまった。  今の仕事を志望したのは美津のおかげかもしれない。  美津の部屋にはいつも上品な香がたかれていた。呉服屋の広く綺麗な離れで療養していた美津、儚い命で、すきとうるような心を持った美津。  晴にとって遠い憧れであったし、彼女と一緒にいられることで幸せ満たされるように思えた。  峰吉先生は帝大まで出ている秀才で、今年三十ぐらいだろうか。痩せいていて、無精髭をはやし白衣も薄汚れている。とても病院の清潔さとはほど遠い。彼はなぜこんな所にいるのだろう。 後から聞いた噂では彼は極端に臆病で注射を打つときなど、手が震えてチャリンと注射器を落としてしまう。いざこざで腹を刺された男が運ばれ着たときには、血だらけになった男を見て卒倒してしまったという。いつも患者の前では、おどおどしていて話すことができない。子どもの患者は峰吉をみると決まって泣き出してしまう。 婦長から命じられたことは、先生のお世話だ、先生は病院の倉庫から様々なものを盗み出していた。薬品や器具が必要なときにないと大さわぎになるのだが、決まったこの研究所にあることが発見されるのだ。 「見つけたら、ただちに持ち帰ること。先生は慌てふためき大声を上げるかもしれないが、決して手を上げることはないが、気を静めるように何とかすること」 「何とか・・・・・・といってもどうすればいいのだろう」 病院に入りたての若い看護婦にはあまりにも酷な仕事といえる。 それに、この変わり者の先生には誰も近づこうとはしなかったし。「研究所」といっても病棟から隔離された山の中にあった  しかし晴子はいつの間にか監視役というより、窃盗の共犯になっていた。夜になると、先生が必要とする器具や薬品を盗み出すのだ。 「その薬品なら、あの棚にある。これがその鍵だ・・・・・・ああそれからゴム管も多めに、シャーレも五十枚……フラスコを二十個、それからこの薬品」とメモを渡された。  要求は止めどがなかった。本来ならおしゃべりな晴子は「ハイ。ハイ」と返事をすることしかできなかった。そのくせ先生とはそれ以上のコミュニケーションをとることができなかった。  東京まで何とか言う薬品や洋書を買いに行くおつかいくことになった。 「とても危ないものだから、郵便などではたのめない。直接買ってくるんだ。それからこのこの論文を帝大の木田先生に届けてくれ手紙もそえてある。」  そんなものを看護婦にたのむのはどういうつもりなのだろう。「院長にばれたらたいへんだ。秘密裏にたのむ」  翌朝早く家人に気づかれないように家を出た。駅から乗り込んだのは初老のしんしだけだった。  しかしあんなにも憧れていた東京にこんな形で行くことになろうとは、こんなに密かにまるで犯罪を犯しているみたいだ。「東京」といえば、どきどきとむねがおどる。そう女学校時代にお世話になった紀子先生が青春時代を過ごした場所なのだ。   列車はまだほの暗い海をみながら朝焼けの富士を見た。  東京駅に着いたのは、昼過ぎだった。広いホームには人人の波、できたばかりのお城のような煉瓦造りの駅舎に心を奪われる余裕もなく流されるままで、やっとみつけた駅員に行く先を尋ねた。  晴は言われた市車を降りた。そこでも人・人・人……どこからこんなに人が出てくるのだろう、少し風景が違って見えたのは、学生服の学生が目立っていたことだ。迷子になりそうで途方に暮れていた晴に目もくれようともしない。突然目の前の街がぐるぐると回りだした。。かかえていた風呂敷にしがみつようにしているしかなかった。晴は気が遠くなってくのを感じた。こんなにも遠い東京で死んでしまうのではないか。だれも知らない地でひっそりと……  目が覚めると紅い灯がみえた。心地よい音楽が聞える。自分がいったいどこにいるのかわからなかった。どこかの世界……いやここは今日来た東京だ。でもどうして……だんだんと壁に掛かられたランプだ。男たちの声がする。笑い声が、それが四五人だとはっきりしてくる。 「ああ、気がついたみたいだぞ」  やさしげな声がした。答えようとしたが、声を出すことができない。  手首で脈をとっているようだ。  目鼻立ちの良い男が見えた。学生だ。 「よかった」 「ここは?」と初めて声を出すことができた。 「喫茶店だよ『インゲ』という店だ」晴は自分が喫茶店のソフアーで寝ていることに気づき身を起こした。 「これでも飲むかい」とガラスのコップに入った金色の飲み物をすすめられた。キラキラと氷が輝いている。 「紅茶、アイステイー」  薬のような香りがすっとした。口をつけるとくだけた氷が唇に触れた。 「突然女の子が道で大の字で倒れるんだからびっくりしたぜ」 「おお大丈夫か」 「どこから来たんだい」  晴は五人の学生に取り囲まれ、矢継ぎ早にきかれ、ことばはわかるものの答えることができない。 「ケーキがあるだろ。それもプレゼント」  白いふわふわのクリームは不思議な食感だった・ 「いったい、どこへ行こうとしてたんだい」 「大学の医学部の本田先生のところです」 「医学部?」 「本田?」 「おう、われわれもそこの学生だ」 「本田先生は変わり者だぜ」  学生たちははどっと笑った。 「変わり者?」  晴は峰吉先生のことを思いだし一緒に笑いそうになった。 「でもたぶん今はいないぜ」 「裏山に行ったんだよ」  裏山? ますます峰吉先生とおなじではないか。 「夕方までには帰ってくるはずだから、ここにいるといい」  変わり者といいわれ晴は峰吉先生のことを想いだした。薄暗い研究室それも病院の裏山の小屋に閉じこもっている。 「先生はどこに行ってるんですか」 「裏山だ」 「蛭をつかまえに行ってるんだよ」 「ヒル」と晴は息を呑んだ。 「そうだヒルの生殖器の研究だ」 「でもお医者様がなぜそんなことを」 「細胞と免疫機能に関する研究だ」 「医学の研究は人だけでなく生きとし生けるもの全てを知らなくてはならない。悉てをいとうしむことが学者にはたいせつなんだ」  田中と呼ばれた学生はかおいっぱいに汗を流しながらいった。 「こいつの体はヒルのキスマークだらけだ」  そう言われ田中はケタケタと笑った。  晴は紅茶をひとくち啜った。 「ところで君はうちの大学に本間先生の所になにしにきたの」沢口が訊いてきた。 「なんか職業婦人みたいだけれども・・・・・・女中さんじゃないよな」と村田が晴の顔をまじまじ見て」 「いったい、どこから来たの」  やせぽっちの村田がめがねを拭きながら訊いた。  矢継ぎ早に訊かれ晴はこまっていたがやっと「静岡からまいりました」とこたえた。 「へー。静岡」とびっくりしたように田中はいった。「それはそれは遠いところたいへんだったね」  なにが大変か、女だてらにといいたいのか。しかし東京の街に圧倒され無様に倒れ学生たちに介抱されてされている身を想うと口答えができない。 「はい、静岡では看護婦をしております。今日は先生のお使いできました」 「じゃ、その風呂敷は、君の先生の論文か何かかな」といった村田に失礼だと晴は想った。 「いえ」  実は晴も先生に渡されただけで見てはいない。分厚い綴りと壜のようなものが三本、あるのがわかる。  晴を意識しれか饒舌に田中は演説しはじめた。 「明治、そして大正へと、この日本も西洋医学を学ぶだけではなく、その先端を歩もうとしている。北里博士しかり野口博士しかり、細菌やウイルスの研究とやつらと対決する前線にいるんだ。我らの進むべき道には多々の困難が待ち受けている、そう我々が開かねばならない扉はそう、きょうも静岡から、うら若きこの……女性が地方で研究する学者の論文を携えてやってきたのだ・・・・ところで君は名をなんといったのかな。 「鈴木晴と申します」 「鈴木君のような名も無き人々が我々と医学を拓いていくのだ。そうだ西洋には医学を志す女性があまたいる。西洋では放射線での治療にも女性がいどんでいる」 「弁舌さわやかだね、いつもは無口な君がめずらしい」 「いや・・・・・・」と田中ははずかしそうに頭をかいた。  晴は学生たちにつれられて真新しい建物が並び立つ大学の構内にいた。煉瓦造りのぴかぴかに光る東京駅にういたときときから、あたらしいことばかりで、文字どおり晴は眼を回してしまったのだが、大学という所はまたどこかの違う世界のように想われた。  晴は茶色の建物に案内された。玄関も大理石で広く厳めしい。広い階段もひんやりして、青銅の裸婦の塑像がその静けさを支配しているようであった。t  村田は重そうな木のドアをノックして、少しうわずったような声で「先生いらっしゃいますか」と呼びかけた。  しかし返事はない。  今度はもっと激しく叩くと、しばらくして「はい、そう激しくたたくと、扉が壊れる・・・・・・入りたまえと重々しい老人の声がした。  部屋の中に入ると、ここにも洋風の浮き彫りに色の付いたガラスが埋め込まれた衝立がある。両側にはびっしりと、分厚い金色の文字の洋書が整然と並んでいる。  どこかで嗅いだ臭いだと晴は想った。書物だろうか。峰吉先生の研究所とも違う。薬品だろうか。胸に重くしみこんでくるようだ。 「先生、お客さんをおつれしました。かわいいお嬢さんです」 「ああ……」と振り向きもせず先生は応えた。 「静岡からまいりました者です。新村峰吉先生から預かり物を持ってまいりました」とお辞儀をした。  先生はまだ振り替えろうとしない。 「これです」と風呂敷を土産に持たされた菓子を前に差し出すと、先生は苗を向いたまま受け取った。  そのとき横顔だけが見えた。口髭が立派な老人だった。晴は近寄りがたい者を感じて一刻も早くこの場から逃げたかった。 「おい、あれは買ってきてくれたか」 「はい教授神保町の天野やの団子ですね」 「ありがとう」 「十本ですね」 「十本だよ。またあそこのばあさんにだまされてはいないだろうね」 「はい」  先生は前をむいたままだ。  しばらくして半時ぐらいたったろうか。それまで学生たちは静かに立ったままだ。 「はい」と先生は息をつくと、回転椅子を回して振り返った。  白衣はすり切れ、所々にインクの染みがある。  先生はうれしそうにそれをうけとると、大事そうに経木にかけられた蝶結びのひもをほどき。なかから蜜のたっぷり掛かった串刺しにされた団子をあんぐりとおおきなくちをあけ、一口たべた。  蜜がぽたぽた膝の上に落ちるのも気にするふうでもない。口をもぐもぐさせながら、晴の持ってきた風呂敷を開けると  くいいるように峰吉先生の原稿を読んで時々「ほー」とか「うーん」とかいっている。  やがて田中がおそるおそる「教授いかがですか」ときくと、 「・・・・・・面白いねえ」と教授は原稿を読みながら答えた。 二時間ぐらいだっただろうか、立ったままの晴はその間身動きできずにいた。  鳥がないていている。学生たちは研究室の本棚から分厚い本を思い思いに取り出し読みあい、たがいにひそひそと質問しあっていた。  西日が窓から入り、学舎が銀杏並木が金色に輝いている。  晴はなんと遠くに来てしまったのだとおもった。   「よく、地方の田舎でこれだけの研究ができたものだ。……こんなこと斬新な研究などきいたこともない」と大きな溜息をついた。 「先生は海外への遊学はなさっているのかね」  眼鏡をかけ直して教授は晴に訊ねた。 「さあわかりません」 「歳は」 「さあ、三十ぐらいだとはおもいますが」 「君の先生なのに年齢すらわからないのかね」 「すみません」  教授は「今、返事を書くからまっていなさい」といって机に向かっている。暗くなってきたので学生が部屋の電気をつけ教授の机のスタンドの電気をつけた。  教授のペンの音や、学生が本のページをめくるだけの音がする。晴にとってまた長い長い時間がすぎていった。   「おじゃましました」と晴たちが退室しょうと挨拶をしても、教授は机に向いたまま何かをまた書き始めていて返事をしない。 「学者というものはみんな変人ばかりだ」晴は想った。 返事のはいいた封筒と、辞書のように厚い本をもたされ、風呂敷を抱えなおした。 「うちの研究所って結核の研究をしえたんでしょうか」 「なんだ、君はそんなことも知らないでここにきたのか」田中はあきれたようにいった。 「いや、生殖細胞の研究だ。放射線が細胞に与えるかの研究だ」村田は自慢するようにいった。何のことやら晴にはわからない。 「それで結核の人も助かるのですか」 「いや、やけに結核こだわるやないか」と田中はそれ以上のことはきかなかった。 「君の先生も同じ目的らしい」  晴はそんなことよりも、もうすこし結核で死んだ美津のことを話したかった。   大きな書店で学生時代に手伝ってもらい難しい専門書も買うことができた。 晴は胸をなで下ろした。東京まで来た役割も果たしたし、重い荷物も郵便で送ることができた。  学生たちに誘われてカフェというところに行った。 「わかい娘さんをそんなところに誘うなんて・・・・・・」と村田はたしなめたが、どんなところか晴にはわからない。  広い店内はわいわいとして騒がしい、たばこの煙でぼんやりとして見渡すことができない。隣にいる田中の声ですら聞き取ることができない。 「きみはまるで蛇の前の蛙のようだったな」  田中の声もようやく聞き取れるようになった。 「君の先生はすばらしい。これからの期待の星だ。日本の未来、医学にとって必要な研究だよ。君も、鈴木君もこの研究に参加していることに誇に想わなくっちゃあならない」  晴は一度倒れ、喫茶店で寝かされていた。 「で、君は社会主義の現状をどうとらえているのか」 「うーん。平民宰相の原内閣なんて期待がもてんぞ」 「地方の農村はます貧しくなっている」 「西洋ではプロイセンが台頭してるようだ」 「レーニンの革命はどうなったのだろう」 「アインシュタインの理論なぞわからん」  話の内容はあちらこらへと飛び、晴にはわけがわからない。 「では諸君。我々の未来を祈って祝杯を挙げよう」  乾杯いという男どもの野太い声が、学生とは無関係なホールに響き渡った。 「そして、今日この帝大に地方の研究者の論文をはるばる届けてくれた、婦人がいる。ここにおられる。鈴木晴女史だ」  また拍手が響き渡った。 「ああ玉杯に花受けて……」誰かが歌い出すと、ホール中が唱和した。   寮歌はしだいに卑猥な歌になっていく。 「一人娘とやるときにゃ……」  それは晴にとってもいたたまれないほど恥ずかしいものであり、ここに女性がいることすらわすれられているようであった。 「デカンショ、デカンヨャで半年暮す」  また卑猥な歌が続く。隣にいた学生はそんな晴子に気づき、 「デカンショって何か知ってますか」と大声できいてきた。 「デカルト。カント。ショウペンハウエルのことです。僕たち学生は哲学書を寝ても覚めても精読している。ていうことです」 「コギト、エラスム」 「小人?」 「我想う故に、我あり」 「へっ」 「いいですか、この世界が我がどんなに疑おうとここに私がいる。っていうこと……分りますか」 「はあ、なんのことかさっぱり  田中は晴の前にビールのジョッキをどんと置いた。 「君も呑みたまえ!」  晴は酒など飲んだことはない。  ぐいと飲んだ。痺れるようなにがさだった。  ジョッキいぱいのビールを晴は飲み干してしまった。  顔がほてるのを感じる。  誰かが「第一高等学校寮歌。嗚呼玉杯!」と叫ぶと歌い出し、また酒場中が唱和した。 ああ玉杯に花うけて  緑酒に月の影宿し  治安の夢にふけりたる  栄華の巷低く見て・・・・・・   聴いた晴に怒りがこみ上げてきた。何が「栄華の巷」だろう何が「低く見て」だろう。この日とたちは何も分かちゃいない。極貧に飢えて遊郭に売られてしまった友達のトメのことを、理想にあこがれ作家の木島潔に裏切られた紀子先生のことを、いろいろな想いが晴の頭をよぎた。ミツはこんな学生たちを憧れていたのだ。理想を愛し、自由夢見て 理想に向けて今青春を謳歌している。 「あなたたちに何が分るんだ。本当の貧乏を知らないじゃないか。大学まで生かせてもらって飲んだくれてるだけじゃないか」  ほとんど晴は泣いていた。  学生たちは晴を呆然と見ていた。酔って訳の分らないことを弁舌さわやかに演説していカフェにいた学生たちは、水を打ったように黙り彼女を見た。 「鈴木晴歌います」晴は涙を右手で拭うと、手を挙げて叫んだ。  晴の知っているのは学校で教えられた唱歌ぐらいなものだ。  歌っているというよりも、怒鳴っているかのではないかと晴は想った。この場の雰囲気に必死で抵抗しようとしてるかのようだった。 「次・ふるさと」  知っているかぎりの歌がとめどなくできている。  突然たちあがった若い娘に学生たちはその歌に加わり、歓声をあげた。晴の滑稽なすがたに笑い転げるものもいる。 「次!」  太った女給が大声で、 「もうそろそろ、店は看板だよ」  というと、学生たちはすっと静かになって、帰り支度をはじめた。  店先まで女給はでてきて、見張るかのように睨んでいる。  「田中は前にこの店の看板が気に入らんと取り外し、河に捨てたことがあるんだよ。それ以来あの女給は俺たちを目の敵にしてるんだ」  外に出された学生たちはまた店先にどっと戻り寮歌を咆哮した。 「けしからんやつだ」と酔った田中は軒によじのぼり、看板にぶら下がり、めきめきという音とともに見事に落ちた。  酔った学生たちは、その看板をわしょいわしょいとかかげ、河に捨てた。歓声を上げた。 学生たちは道々、なにやらマルクスがどうの、革命がどうのと議論をはじめた。 こんな夜遅くに、町中で迷惑ではないかと晴はひやひやしたが、夜が全てが不埒な彼らを許すように更けていった。 多くのひとがひしめく、東京駅の中だった。 「晴さん」  誰かに呼びかけられびっくりしてしまった。  振り向くと洋装の紅林紀子先生がいた。この雑踏のなかで先生は輝いていた。  しかし何年ぶりだろうか。 「先生」  あまりにも急なことに、涙があふれてきた。 「先生どうしていたんですか。元気でいたんですか。本当にあの事件の後どうしてたんですか。溝口は逃げてしまうし、先生は警察に捕まってしまうし。本当に恐かった」  ほかにも抑えきれないほどのものがあるのに、ことばにならない。晴は先生の手をぎゅっと握って泣きじゃくった。 「本当にどうしていたの。木島は? 木島はどうなったの」 「知らないわ」と先生はうつむいてこたえた。 「先生は今何をしてらっしゃるんですか」と晴が訊くと先生はやさしく微笑んだ。  郊外に向かう電車を降りてずいぶん歩いた 晴子の育った田舎とは違い、田が遙か彼方まで広がっている。小さな丘陵があるが山は青く果てにあるようだ。雲雀がとびあがり、天高く鳶が舞っている。秋になり取り入れ前の稲が金色にかがやいている。 「これが武蔵野だ」  前に小説で読んだことのある、憧れの地のひとつだった。  先生は今着ているようそうについて、東京で若い子たちの流行について、銀座にできた洋菓子の店話などについて話してくれた。  晴は「へー」とか「ほー」とかいって驚くことばかりだった。  あれからのことについて、先生は語ってくれた。あの事件の後、友達をたよって東京にでてきたこと、出版社で校正の仕事をしていること 「そしてね、また新しい先生の仕事を見つけたの」 「えっ」  先生の笑顔は晴にとって眩しすぎた。  あのころの先生とはだいぶ違う。先生は変わった。    やがて小高い山の裾にある村を通った。村のはずれには高い屋根のある寺があった。山門にも仁王がすすけてかまえていた。 「せんせい、おかえりなさい」 野太い元気な声がした。でっぷりと太った大柄の青年がいた。 「せんせい、東京にいっていたのか」 「先生?」 「ええ」 「東京でも先生をしていたんですか」  少し失礼な質問ではないかと思った。 「ごくろうさま。またこんなに沢山お野菜をもってきてくれたんだ」 「いもとだいこん、それにいんげん、そしてトマト」  彼は「トマト」を自慢げに声をはりあげた。 「みんな、庫裏に置いてきたよ」 「ごんさく、いつもありがとう」  ごんさくは後ろにいた晴に気づくと 「こんにちは・・・・・・美人だねー」といわれ晴はびっくりした。  ごんさくは方に背負った大きなかごをゆらしながら駆け去った。 「なかなか働き者でしょでもの前の戦争で徴兵で軍隊に入ったんだけど、上官を殴って、けんかですぐにクビになって手が着けられなかったのよ」 「ここの、お寺は?」 「学校よ。病気の人たちの」  紀子先生の目は輝いていた。 「それでね、神田の出版社で校正の仕事をしているときに、社長さんにしょうかいされたのよ」 「紀子先生、おかえりなさい」 「先生お帰りなさい」  手足の不自由そうな女性。旨くしゃべれないひと、目が見えないのか紀子の気配だけ感じてあいさつをする白い髭の老人。晴はなんどもおじぎをして「こんにちは」とこたえた。 「女学校の教え子、鈴木晴さんです」  歳老いたた背の低い品のいい和尚さんに紹介された。 「これは、これは」と和尚さんはいい「遠い所を……」と目を細めた。  本堂の中では十人ほどの女性が座り込み、猫背になって針仕事をしている。ある人は顔をしかめながら、ある人は指に針を刺しそうになりながら。でも運針は晴より速い。一人に割り当てられた山のようにある反物を右から左へと片付けていく。 「ミツさん、侯爵様のお仕事どう」  ミツという名を聞きはるはびっくりした。ミツは顔を上げ口をゆがませて聞き取りにくいことばで何かを答え。笑顔になって「あはっ」と笑った。 「そう、よかったわね。これで侯爵様もお喜びになるわよ。ミツさんの仕事は丁寧だからってご指名だったから」 「あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・す」と一音一音をくぎってこたえた。 「ミツさんというんですね」 「そう美津さんと同じ。歳はずっと上だけれどね、侯爵様のドレスの仕立てをしているの」  ミツの手もとには、煌びやかに金糸銀糸で刺繍した白いドレスがる。 「来たばかりの人には、運針の練習からはじめるの、みんななれないうちは指にさして、たいへんなの、バンソコをまいて大変なの」  ミツはそれをきいてなにやらいうとケタケタと笑った。 「うまくなると、反物を裁ったり、着物を仕上げたりするの。不器用だから何もできないんだけれどね、仕事を与えるとみんな見違えるようになるの」 「へー」  ミツさんは手を休めると紀子と目を見つめた。 「せ・ん・せ・い・ま・た、ホ・イ・ッ・ト・マ・ン・の・詩・を・お・し・え・て・くだ・さ・い」  晴はまた学生時代を想い出した。先生の美しい朗読を聴きたいとおもった。 「こちらへおいでなされ」  和尚さんによばれ客間に通された。 「紀子先生にはよくして頂いております」  静かに和尚さんはお茶をすすめた。 「和尚さんがこの学校を開いたの。明治の初めすっかり荒れ果ててしまったこの寺を建て直したの。この境内に学校には入れなかった子どもたちを集めて、協力してくれる人たちの援助を受けて、こんなにも楽しい学びの場にしたのよ」  和尚さんはうれしそうに微笑むと。紀子のことばには少しもふれなかった。 「今年は柿の木に実が沢山できて、烏がたくさん集まってきました」とぽつりぽつりとはなした。  晴は病院から帰り、病院の事務室に銀座で買った洋菓子を届けた。「実は・・・・・・」と言いかけたが事務長は「大変だったね」と事情を分っているらしく、ねぎらうようにことばを書けてくれた。 婦長からは「これ一度、食べてみたかったのよ・・・・・大変だろうけど」と真顔ではげまされた。 これから先生に報告しておせわをしなくてはいけない。 婦長さんは。 「お茶にしましょうよ。研究所にはまだ行かなくてもいいでしょ」  先生はあの研究所に閉じこもりきりで出てこないという。食餌も下働きの下女が代わりばんこに届けていたそうだ。  先生はみんなに嫌われていたので「食事ですよ」と大声でいうと「ああ」と返事を聞き逃げ帰ったという。 「おばけみたいだった」と気持ち悪そうに言い合ったというが、ひどい話だと思ったが、晴は婦長と一緒に笑っていた。「私にはいつものことだ」と溜息をついた。 「中学の頃から、先生は困り者だったのよ」と婦長さんは紅茶を一口啜ると溜息をついた。 「小さなころには、近所の子たちとも遊ばないで山の中を走り回っていたわ。学校にも行かないで。たまに学校に行ってからかわれると、大きな声を出して起こって物を投げたり捨てあばれる。女の子の花柄の文房具をなめたりしゃぶったりするし、先生の話も聴かず勝手にしゃべりだすし、幾何の時間にも黒板の前にすたすた出て行って難しそうなことをいって、みんなにはそれが意味が分らなくって担任の先生には『何年も教師をしてきたが、峰吉にはさじを投げましたよ』っていわれるぐらい手に追えなかった。大先生のコネで無理矢理中学に押し込んだんだけど、ここでも授業はさぼるし図書館に入り浸り……でもね試験の成績は良かったの。東京の帝国大学に受かって、大先生もひとまず胸をなで下ろしたの」  婦長さんはまた溜息をついた。 「学校では、医学の勉強をしたの 立派に博士号をとったんだけど 、医師の試験には通らなかったのよ、インターンで行った時患者なんに大声で怒鳴ってけんかをして、相手が刺青のある大親分だので、大けがをして」 「患者さんにけがをさせたの」 「先生がやられたの。それから怖がって患者さんの前には出られなくなって一層図書室や研究室に閉じこもるようになって」  晴は峰吉先生のことが哀れになってきた。  先生の味方になりたいと思った。  晴は病院の裏山にいつものように登った。彼女にとってこの場の仕事はなににもましてつらく嫌なものだった。ネズミの死骸の入った大きな箱を背負子につけ、石造りの「火葬場」 まではこび火葬するのだ。  そこに黒い御影石で「忠忠魂塔」と達筆な書体で書かれている。何でも街でも有名な書家の物らしく公園にある日露戦争の慰霊碑よりも立派だった。実験で使ったネズミたちためのものだった。 「それは峰吉先生の優しさかもしれない」と晴はこの前に立つといつも思う。  街全体が見渡せるこの場所は遠く海が輝いて松林の連なりも一本に一本がはっきりとわかる。  この山は女学校の時に友達とのぼり、駆け回ったりおしゃべりをしたりしたところだ。近頃流行っている茶巾袋がかわいかったという小物のはなし、どこそこの店の菓子がおいしかったこと、中年の教師の口癖や、タンを切るように唸ることに笑い転げ、まだ若い教師同士が恋愛関係にあったことを密かに情報交換したりした。  しかし今の仕事はそんな夢のような思い出を台無しにしてしまう。  晴は焼却炉の重い扉を、開けるとネズミたちの棺をそこに納め、反故にだれたかみをひねり、薪を重ねマッチで火をつけた。  扉を閉め、小さな「般若心経」を開き口の中で唱えた。またもあの嫌な臭いが鼻をついた。薬品で殺処分されたネズミたちのことを思った。  晴が手をあわせていると「ちゅうちゅう」と鳴き声がする。 「たしかにみんな死んだことを死んでいるかたしかめたはずだ」 晴の背筋は凍った。  あわてて晴は扉を開けた。  二百匹あまりのネズミが雪崩を起こしたかのようにボロボロと飛び出てきた。一匹一匹は背に火が付いている。あわてて手を桶の水を掛けようともネズミたちの流れにおいつくはずもない。  ネズミたちは一斉に山を駆けおりてゆく。  ネズミたちは街におりると飛散していった。  始めに声を上げたのは豆腐屋のばあさんだった。「うぎゃー」と猫が絞め殺されたような声を出し沢山あるはずの水も掛けられず、三匹のネズミは積み重ねられた大豆の袋に火をつけた。あわてた旦那が水をけたがもう壁に燃え移りそうないきおいだっった。  子どもたちは走り回る火の付いたネズミをおいかけてはしゃぎ回ったが、かえってねずみを家の軒に追い込むことになってしまった。  やがて辻辻のゴミ箱が燃えだした。  街でも大店の米倉から火が上がった。  鳶の若い衆が屋根の上を追い回した。いつもは俊敏な彼らでさえ火の付いたネズミに手や鼻をかじられ見事屋根からころげおちた。  ヤクザ風の男や、力自慢の男が棍棒や鎌をもちそれこそしらみつぶしにつぶしていく。  あちこちで火が上がっていく、半鐘が町中に響きわらる。  晴は力なくその場にしゃがみ込んでしまった。 「どうしよう。どうしょう」  街では新調したばかりの消防車が出動していた。常設されていた手押しポンプの放水が始まっている。 「どうしよう、どうしよう」  晴は泣くこともできなかった。  ふと気づくともう一方の麓から煙りがたっている。 「研究所だ」  晴は山を駆け下りた。 「先生、先生!」  そこには呆然として立ちすくむ峰吉がいた。  すでに研究所は半分焼け落ちている。 「先生、ご無事だったんですね」 「ああ」と先生は力なく答えた。  街の災害は山の麓の一区画ですんだ。警察の調べで原因はネズミであることが判明して、峰吉先生と、晴はきびしく取り調べを受けた。三日後に返されたのは、院長のちからであったらしい。賠償やけがをした鳶などへの見舞いもそつなくしたらしい。院長は峰吉にはなにもいわず新しく耐火性の頑丈な研究室を新築した。 婦長は笑顔でその鍵を晴に渡した。 「これからも峰吉のことを頼みますよ」 晴は峰吉先生と同罪で責任をより重く感じ、鍵をぎゅっと握りしめた。「これからはお世話だけでなく監視もしなくてはならないのだろうか」  新しい研究室の鍵を入れドアをあけ開けると新しい実験道具がきちんと配置されている。奥まで行くと峰吉はフラスコを眺めている。峰吉は晴に気づくと、 「新しい小麦粉をかってきてくれ、それから豚の背脂だ」  今度は一体何をする気だろう。料理など始める気だろうか。 「それから夏蜜柑をひとつこれで、上手くいきそうだ」 「一体なにしようとしてるんですか」 「細胞だ、新しい命だよ」  フラスコの液体をリペットでプレパラートに落として顕微鏡をのぞき込み、 「行ってまいります」といったがそれには気づかない。  晴はいわれるままに鍵を掛けたが、思い直して鍵を開けた。 「やっぱりこの人には私がいなくっちや、だめなんだ」と晴は諦めでもなく、決心というよりも、使命というよりも、何か大きなものに挑戦することへの尊厳のようなものを感じていた。                                了
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