あげるよ

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 ぼくはぬいぐるみです。 くまのぬいぐるみです。 なまえは まる です。 この名前を考えたのは なおくん です。 全体的に体がまるっこいからだそうです。 なおくんは幼稚園の男の子です。 はじめて会ったのは去年の春の日曜日。 おもちゃ屋の棚にいるぼくと目があったなおくんは、 「これ買って!これ買って!」 とジタバタしてパパとママを困らせました。 あんまり騒ぐので、 「これ以上騒ぐと二度と買い物に連れて行かないから!」 と怒られました。 でもなおくんは、 「絶対これじゃないとヤダ!」 と言い続けました。 周囲のお客さんの注目が集まったので、ついにパパとママが折れました。 なおくんの粘り勝ちです。 「大事にするのよ」 「うん!」 それからぼくはなおくんのおうちで暮らしています。 なおくんのおうちは住宅街の真ん中にあります。 近所には公園があって、 ぼくも連れていってもらったことがあります。 ぼくとなおくんはなかよしです。 いつでもいっしょ。 なおくんは力いっぱいブンブンぼくをふりまわすことがあるので、 もうすこし優しくしてね、って思っています。 なおくんはわがままです。 おやつの時間、自分のお菓子を食べたのに、 家族の分のお菓子を見て、「これぼくの!」って言います。 公園に行っても、他の子にブランコの順番を譲りません。 お茶の間のテレビも、自分が見たいアニメがあるから リモコンを渡しません。 「貸して」って言われても、 「やー」って返します。 パパとママは、もうすぐ小学校にあがるのに大丈夫かな? と二人で心配しています。 そうこうするうち時は過ぎ、厳冬の頃を迎えました。 ある寒い日の午後、押し入れの中からセーターが出てきました。 「懐かしい」 ママはセーターを手にとって見つめました。 「これ、昔私が編んだやつだ。 うーん。でももう着ないかな。でも捨てるのもなー。 ほどいてなにかにつくりかえようかな? なおは何をつくってほしい?」 ママは言いました。 「いらない。まるくん寒そうだから、まるくんにあげて」 と言いました。 なおくんがなにかを譲ったのを見るのはこれが初めてです。 ママはすごくびっくりしました。 「ほんとに?わかった。 なおが自分からそんなこと言うなんてね。 ちょっとは成長したのかな?」 ママのセーターだった毛糸は、 編み上げられてぼくのマフラーになりました。 それからぼくはとってもあったかいです。 「よかったね。もう寒くないね。」 とっても、とっても、うれしかったです。 小学生になったら、 こんな風に周りの子を思いやってね。 いつかなおくんに弟か妹が生まれたら、 こんな風に優しくしてあげてね、と思いました。 おわり
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