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寂しい…?
そうだな。きっと、俺は、寂しいんだ。心を重ねることも、身体を重ねることも、もう出来ない。どんなに欲しがっても、触れることは出来ない。一人だと感じれば感じるほど、たまらなく虚しくなる。
彼女は俺の涙を人差し指で拭うと、少し背伸びをして俺の唇に唇を重ねてきた。
優しく、温かい唇。
しばらく唇が重なり、少し離れると、彼女はもう一度唇を重ねて、今度は深く情熱的なキスになった。ツンと胸が切なくなって、涙が止まらないまま、俺はまた彼女を抱きしめてキスを繰り返した。
懐かしい香りがする。
甘く、切なく、ほのかに花びらのような香りを漂わせて。
彼女の名前は、穂積緋奈巳。
ある春の日。
まだ桜の花が残る並木道の建物の屋上で、こうして出会って、すぐにキスをした。
お互いに、傷つきながら…。
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