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緋奈巳さんは肩を落としてトボトボと歩き出すと、私はそんな緋奈巳さんを追いかけて、チャリを押しながら少し駆け足で追いついた。
「本気で好きだったの。私を育ててくれた大好きなおばあさんが死んじゃって、それだけでも凄く辛いのに、失恋まで重なって。さすがにキツくて、一瞬死のうと思ったのよ」
と緋奈巳さんが言うと、私はギクリとして眉根に力が入ってしまった。
「緋奈巳さん、それはだめ!」
「うん。そうね。情けない。ほんとにね。でも、その時助けてくれた人がいて、そのひとに温もりをもらったわ」
「え?温もり?」
私には、その意味が分からない。ちょっと首を傾げて考えてみる。やっぱり、分からない。緋奈巳さんは私を見て微笑んでいる。
「ズルイ女だと思う。でも、人の温もりって、言葉より何よりも、癒される。奏多の温もりを、全然知らない人が上書きしてくれた」
「知らない人?上書き?なんか、私にはちんぷんかんぷんです」
「ふふ。いいの。分からなくて。でも、救われたの。運良く、その人、すごく大人でいい人だった。慰めてくれたんだけど、何故かその人も何か哀しみを抱えていたのか、泣いてたわ。お互いに、必要な温もりだったのね。…まあ、それより、おばあさんの部屋は明日には引き払われるし、奏多の部屋にある荷物も処分しなくちゃならないし、私…何処に住もうかな」
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