第4章 キモチの境界線

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そして、静かに唇が離れると、 「やっと名前で呼んでくれたね」 彼は私の耳元でそう言うと、私はそこでやっと『千津くん』と呼んだことに気がついた。 「凜も、凛の家族も、坂井さんたちも、きっと凄く辛いことが昔あったんだろうね。でも、凛は素直な女の子だ。それはきっと、みんなの優しい愛情に囲まれたからなんだろうな」 「…千津…くん…」 「刑事になりたいって話は、大地にも誰にも言ってないから、秘密」 千津くんが私をきつく抱きしめながら言うと、私はキュンと切なくなって頷いた。 なんとなく、恋の予感がした。この人のことを、好きになりそう。千津くんのことを、もっと知りたい。そう思ったってことは、恋が、すでに始まっているのかもしれない。 私の、本当の恋。本気の、恋。 せつなくて、泣きたくなるような。 嬉しくて、思い出すだけでにんまりと笑みが溢れるような。 言葉にしてもうまく伝えられなくて、もどかしくて、焦ったい戸惑いも。 私は、そういう恋愛に、ずっとずっと、憧れていたんだ。
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