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1、絶対、コートが欲しかった。
どうしても欲しかった。今年の冬は絶対あれ!って見た瞬間に決めた。だから、あれじゃなきゃ駄目だったのだ。
やっと、ねだりにねだって、母にコートを買ってもらった。ブランド物のかなりお高めのヤツ。
母は「子供には高過ぎる!私でさえそんな高いの着てないのに」とか「これは今シーズンだけの流行り。そう言うのは安いので良いの!」とか「こんな流行りに乗ったの、次の冬には着ないでしょ!」とか、口うるさく言って、なかなか、首を立てには振らなかった。
私は、どうしても、どうしても、あのコートが欲しくて、あのコートを着て、雪の降る中を歩く自分の姿を頭の中で、完全に想像してしまっていたので、あのコートなしの冬なんて考えられなかったし、もう、自分はあのコートとセットになっていたので、何がなんでも買ってもらうしかなかった。買わないと言う選択肢はすでにないのだ。
その為には何でもする覚悟は出来ていた。
クリスマスは返上、ケーキもプレゼントもチキンもなし。お年玉はもちろんいらない、お正月の手伝いもちゃんとする、いとこのヤンチャな子供たちの面倒も一人で見る。
しかし、そこまで言っても、母の心は変わらなかった。今回ばかりは難しいかもしれない。でも、私の心も固かった。
冬休みは毎日勉強、友達とも遊びに行かず家の手伝いもしっかりする、学校が始まったら、学年で成績十位以内を一年間キープ。お小遣いも少しなら減らしても良いと言った。
そこで、やっと母の心が折れた。普段、勉強を怠けてばかりいる私が、そこまで言うのは本気なんだと通じたのだ。これで、私の勝利。しかして、一目惚れしたお気に入りのコートは、この冬、私と共に過ごす事となった。
そこまでして、と思うかもしれないが、このコートを目にしたら、皆、絶対に欲しくなるはずだし、私も自分で全然、後悔などしていなかった。それどころか、あの程度の事で、この、素晴らしくお洒落で、私に着られる為に存在するかのような、あのコートが手に入るならお安いもんだ。
ああ!この冬は楽しくなりそうだなぁ、皆のうらやましがる眩しい視線を想像して、早くもにやけながら、暖房のきいた温かい家の中でコートを着ては、鼻歌まじりで、ご機嫌だった。
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