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「いえ、ベージュですよ。運転席の被害女性は赤い服ですけど。あっ、これは血で染まってしまったんですね……」
「見せてみろ。あれ? 本当だ、ベージュの軽だな……」と、ヒロ警察官はドーナツの砂糖の付いた指をペロっと舐めて、慌ただしく事故調査書をめくり始めた。
「……ヒロ先輩、このドライブレコーダーって、事故車から取り外したんですよね?」
パソコンの画面を見ながらウルフ警察官が聞いた。
「そうだよ。だけど調書には黒の軽自動車だって書いてあるんだけどなぁ」
「変ですよね?」
「そうだな。まあ、映像が残っているんだから、調書が間違ってるんだろ」
「いえ、それもそうなんですけど、ドライブレコーダーの映像に、事故車が映っているなんておかしくないですか?」
「そういえば、そうだな……。事故車から撮った映像なら、自分の車は一部しか映っていないはずだよな? それと後ろから追突してくる車で、あとはぶつかった衝撃で乱れた映像になるはずだよな?」
二人は最初から映像を見直してみた。
ベージュの車が、高速道路の出口が渋滞していることに気が付いて急に減速する。そこにトラックがスピードをまったくゆるめないまま、突っ込んでいく様子が映し出されていた。
ヒロ警察官はあんドーナツを牛乳と一緒に、ゴクリと音を立てて喉に流し込んだ。
「あ、そうか! これは事故車の後ろを走っている車のドライブレコーダーか!」とヒロ警察官が声をあげた。
「この事故の日付は、僕たちが捜査している事故の一週間前なんです。ほら、確か、この事故を映したドライブレコーダーがないか、担当者がまだ探していたじゃないですか。渋滞していたんだから、誰かしら、ドライブレコーダーに撮っているはずだ、って」
「なんだ、それじゃあ違う事故のドラレコを見ていたんだな。どうりで日付も車の色も違うわけだ。この映像は担当に渡してやろう。それじゃあ、正しいのを取ってくるよ」
キャスター付きの椅子をギシリと重たそうに軋らせて、ヒロ先輩が立ち上がった。部屋を出て行こうとドアに手をかけた。
しかしパソコンのモニターを食い入るように見ていたウルフ警察官が引き止めた。
「……合ってました……」
「なんだって?」
「見てください。……こっちの」とウルフ警察官はカチカチとマウスを鳴らして別の映像を表示させた。「事故があった日の記録には、黒の軽が同じトラックに追突される場面が映っているんですよ」
「ええ? どういうことだよ?」
「つまりですね。一つのドラレコに、日付の違う、二つの事故が映っていたみたいです」
「それにしても、同じトラック? 確かに車種は同じだけどな。ナンバー見えなかっただろう? なんでそんなことわかるんだよ」と不満そうに唇をとがらせた。
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