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「そうだね。難しい。祐さんの心の傷が、多分、一番深いような気がするの。そりゃ、みんなの傷も深いと思うけれど、祐さんは、みんなとはまた違う感じ…。私でも、どうにも出来ないわ」
芹那は、他の誰もが思っていても口に出していなかったことを、こうして話してくれた。俺はそんな芹那がとても愛しいと感じた。
「ありがとう、芹那。さすが、俺が選んだ人だよ。いつか、きっと、兄さんの本当の笑顔が戻ることを信じてるよ」
「うん。そうね。私も」
「帰ったら、兄さんのとこに行こうか」
「うん。そうしましょ!ご飯作るわ」
芹那は俺の肩から顔を離して俺を見つめて微笑むと、俺は芹那を見つめて軽く唇を重ねた。
帰ろう。
みんなが待っている東京へ。
辛い時は、1人には決してしない。
まだお姉ちゃん(萌梨)のことを思い続けている兄さん。お姉ちゃんの火葬場で、声を上げて泣いていた。あの時の声も顔も、忘れられない。
兄さんには、いつか幸せな時間がやってくるのだろうか。心から、笑ってほしい。いつも俺のことを守ってくれた唯一の家族だから。
俺には、もう優しい朝が来た。これからも、ずっと。
そうして。
また新しい夜の歌が、始まる。
完
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