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口尖らせると、叔父は怪訝そうにあたしを見る。
「どうした。男に振られでもしたか?」
「そんな相手居ないの知ってるでしょう」
わたしはこの近くの大型書店、叔父は一駅先の会計事務所に勤めてるので、最近は訳あって時々飲む仲になっている。
「この前、今度は婚活アプリやってみるって言ってただろ」
「言ったけど、別にあたしがやりたくてやってるんじゃないし」
「じゃあ、どうした。理由もないのにこんなところに居たら、変なのに声かけられるぞ」
「……誰も、見向きもしません。あたしなんか、男なんて要らないっていうのが顔に出てるのか、もう誰も寄ってきませんから。電車乗ってたって痴漢すら遭いません」
「おい。それは遭わないに越したことないだろ。……何だか知らないけど、愚痴溜まってるなら聞くぞ」
「徹さんは?」
一瞬、間があって、叔父は言った。
「仕事関係で飲んで、今帰りだ。……まだ終電まであるし、どっか行くか?」
「……うん。そこまでは確実に覚えてる」
「で、お前が日本酒飲みたいっていうから、俺が知ってる店に連れてった。そしたらゲロ吐く勢いで愚痴喋り出したな」
叔父はベッドから体を起こして、枕元に置いてあったペットボトルの水を飲む。
「理沙は。飲むか」
無言で手を出して、受け取って飲んだ。ごく自然に同じものを飲んだ後で気づいた。
それが遠慮も迷いもなくできるようになる出来事が、確実にあったということだ。
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