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「――――ん……」
目を覚ましたあたしは知らない部屋に居て、裸で誰かの腕に抱かれていた。背中からは誰かの気持ち良さそうな寝息が聞こえる。
……なんだ、この状況……部屋は、見たところどこかのラブホだけど……。
恋人なんてものは居ないし、それだから昨日も友達と飲んで、落ち込んで、それで、そのあと――――。
はっ、と思い当たって、弾かれたように振り返ると、その人は驚いたように眼を瞬かせた。
「びっくりした。急に動くなよ」
「徹さ……」
「まだ眠い。寝かせてくれ。家居ると不眠症で……」
また瞼を閉じそうになるのを、頬っぺたを叩くと彼は眉間に皺を寄せる。
「なんだよ」
「あの、……どういうこと?これ」
彼は眠そうな目を開いてあたしを見る。
「どういうって……覚えてないのか?」
「きれいさっぱり、真っ白です」
「自信持って言われたってなあ……」
彼はごろんと仰向けになって天井を見つめる。
「覚えてないんじゃ、事実話していいんだかどうだか」
「……てことは、何かあったんじゃないですか!」
「何かあったって事故みたいに言うけどな、俺から誘ったんじゃないからな」
「……え」
「お前、どこまで覚えてるんだよ」
あたしは、絡まった毛糸を解いて手繰り寄せるみたいに、記憶を遡る。
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