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「じゃ、理沙。またね」
「うん。また」
友達と別れて、彼女が地下鉄の駅に降りて行くのを見送って、あたしは溜息をついた。
愚痴を吐こうと思っていたのに、思いがけず、彼女の結婚話を聞くことになって、傷を広げてしまった……。
時間は22時15分。まだ、終電にはだいぶあるし、このまま家に帰るのは辛い。
帰ったら何も考えず眠れるように、もう一軒一人で寄って行くか、それとも……と地下鉄の入口で考えていると
「おねえさん、ひとり?」
と浮かれた声がした。
見ると、サラリーマンぽい二人組に声をかけられているのは大学生くらいの女の子だった。
……そうね、そうだよね。
と納得して、けれど心配で成り行きを見守っていると
「あたしこれから彼氏と待ち合わせなので」
と強い口調で彼女は言って、彼らを置きざりに歩き出した。
酔っ払いは笑いながら去っていき、もう一度溜息をついていると
「理沙!」
と今度は間違いなく、あたしを呼ぶ声がした。
そこに居たのは、叔父だ。
「……徹さん」
母の二人居る弟のうちの下の方。年が離れてるから、28のあたしとひと回りしか変わらない。
「なにやってんの?こんなとこで」
「こっちの台詞だ。ナンパみたいなのが見えたから心配になって来てみたら、その騒ぎの脇にお前突っ立ってるから。お前も待ち合わせか何かか?」
「……いえ」
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